私のお世話がかり
 ◯回想
 高校 音楽室
 空は今にも雨が降りそうなどんより曇り空。
 ひとりポツンとフルートを吹く双葉。
 黒板横の扉が開かれる。

 友達「まだ練習してたの? まじめだなぁ、双葉ちゃんは」
 友達は身支度を済ませリュックを背負っている。彼女の後ろには二人控えている。

 双葉「どこ行くの? もうすぐコンクールだよ?」
 友達「そんなの、もういいって」
 譜面台の双葉の楽譜をパタンと閉じる。
 友達「駅前にドーナツ屋さんが期間限定で来てるの! 今日までだから行こうって話てて」
 双葉「……」
 双葉は無言で首を振る。ドーナツは好きだけど、今はコンクールのほうが大事だった。
 友達「そっか、じゃあ、頑張ってね!」
 扉が閉まると、クスクス笑う声が聞こえた。

 双葉「……」
 ズシリと心が重たくなる。
 双葉「行ってらっしゃい……」

 双葉(モノローグ)ーー高校の吹奏楽部は正直、居心地が良いものじゃなかった。

 ◯家 朝十時頃
 休日ゆっくり起きると、玄関で母が靴を履いていた。双葉はボサボサの頭でパジャマ姿で話しかける。
 双葉「どこ行くの?」
 足元に弟がくっついている。
 母「バレエを見に行くのよ」
 双葉「バレエ?」
 母「お友達に誘われてね。興味なかったんだけど、あなたがよく口ずさんでいる曲みたいだから、見てみたらはまっちゃったの」
 少女のようにはしゃぐ母を見たのは久しぶりで、双葉は面食らった。
 双葉「ーー」(お母さんがこんなに楽しそうなんて)

 ◯劇場
 後日、家族でバレエを観に行った双葉は目を見開いた。躍動感のあるしなやかな身体、構築されたファンタジーの世界にくぎ付けになった。
 母も横で楽しそうに笑っている。
 弟「すごいね! ヒーローみたいだね」
 弟がささやくと、母は微笑んだ。
 母「この場合はヒロインかしらね」

 双葉(私も、みんなで同じものをみて笑い合いたい。ひとつのものを創り上げたい)
 瞳キラキラと輝いた。
 双葉「今からでも、コンクールに出れるかな……」
 ポツリと呟くき、帰宅後スマホで文字を打った。
「たまにでいいので、部室に来てくれませんか」

 ◯高校 音楽室へと続く廊下
 しとしと雨が降っている。窓から見える紫陽花の葉には雫が垂れている。
 モブ男子「若松さん!」 
 眼鏡をかけた先輩は、一人で音楽室へ向かう双葉を見かけて手を振った。
 双葉「先輩!」
 双葉はぱあっと明るく振り向いた。
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