私のお世話がかり
 ◯居酒屋 お洒落な和室の明かりに照らされる
 双葉と最上は隣同士に並んでいる。
 双葉は最上の不意打ちの笑顔にドキドキ。
 最上「その気持ちはわかるよ。俺も、最初驚いたから」
 双葉「最上さんも……?」
 最上はうなづいて、グラスのウィスキーを一口飲んだ。氷同士がぶつかり、カランと音がした。
 最上「指先を見て」
 最上は双葉の耳元に顔を近づける。
 双葉「指……?」
 見れば、みんな右手の薬指に指輪をはめている。左手薬指は既婚者の指輪だが、右手は恋人がいることを示す、ペアリングである。

 双葉「うわ! わ! な……っ、みんな彼氏彼女持ちですか!?」
 (リア充っぽいとは思ったけど、本当に!? )
 双葉はびっくりして思わず仰け反った。
 最上「大丈夫?」
 言いながら、彼はクスクス笑っている。 
 湯本「大学生だし、別に普通だよ」
 湯本は表情を変えずに、双葉にメニューを広げて見せた。屈んだ湯本の胸元がチラリとのぞき、双葉はとっさに目をそらした。同世代のはずなのに、自分よりよほど大人びて見えたのだ。
 双葉 (みんな、どんな人と付き合ってるんだろう……)
 双葉はサークルのメンバーの人たちの顔を見渡した。
 双葉 (私の知らないこと、色々知ってるんだろうな。大人の関係……とか……)
 そう思うと、どこか疎外感のようなものを感じた。
 別に、誰かに強制された訳じゃない。
 恋愛なんてやってもやらなくてもいいことは分かっているのに、見えない何かにせかされているような気がして、双葉は心がモヤモヤした。

 ◯居酒屋
 斜め前に座る湯本が声をかける
 湯本「双葉サン。次何飲む?」
 双葉「えっ、えーっと」
 湯本の声にハッとし、慌ててメニュー表に目を通した。
 双葉「すみません、気が利かなくて」
 こういうとき、普通はビールなのだろうか。聞いたことのない飲み物ばかりで、双葉は頭に? マークが浮かぶ。
 湯本「全然いいよ。あっ、もしかして、飲み会初めて? やばい、かわいい〜。 ピュアの塊〜」
 湯本は双葉を抱きしめた。バニラのような甘い匂いがして、双葉は頬を染める。
 最上「カシオレ三つ、ひとつノンアルで」
 見かねた最上が店員を呼ぶと、エプロンをかけた同年代の女性がすぐに注文を取りにやってきた。

 部長「ゆっち、双葉ちゃん困ってるよ」
 湯本「あー、ごめんごめん。 まだ十代だって思ったらつい〜」
 宮内「ついじゃねぇだろお前はよ。まーた変な格好しやがって」
 宮内が酔っぱらいながら口を挟むと、湯本は眉をピクリと上げた。
 湯本「はぁ? あんたには関係ないんですけどー。ロリコンキモオタ野郎」
 双葉は気まずそうに息を殺した。
 最上や部長は何食わぬ顔でグラスに口をつけている。つまり、いつもこんな感じ。平常運転なのだ。

 宮内「ふ、ふぇ、えーーーん」
 突然、宮内がシクシク泣き出した。
 双葉 (え、え、え!? )
 宮内「ロリコンじゃねぇしー! たまたま出会ったのが女子高生なだけだしー」
 双葉(女子高生なんだ……)
 ちょっと引く双葉。
 おそらく、アルコールのせいで本音が出てしまったのだろう。宮内は普段のノリの良さとはうってかわり、肩を丸めて小さくなっている。
 双葉 (でも、いつもそうやっていじられてきたのかも)
 考えてみればそんなに年齢差はないわけで、双葉は宮内に同情し、不憫に思った。

 最上「リア充かもしれないけど、みんなそんなに悪い人じゃないよ」
 最上は自分のグラスと双葉のものを近づけた。
 最上「かんぱーい!」
 最上が笑顔で言葉を発し、喉を鳴らして飲む。
 双葉「……そう、かな」
 双葉 (最上さんは優しいな。一緒にいると、なんだか自信がついてくるみたい)
 双葉は心があたたかくなる。
 双葉「最上さん、ありがとう」
 はにかんで笑うと、彼もつられて微笑んだ。
 双葉「分からないこと、いっぱい教えてくださいね!」
 双葉は目を細めた。
 最上「……っ」
 最上は彼女の満面の笑みにドキドキして、
 最上「あ、ああ……」
 とぶっきらぼうに告げるしかできなかった。

 一方、テーブルの正面で部長がニヤニヤしながら二人を見ていた。
 部長「やっば、これは使えるわ。協力してもらお。あたしの夢のために」
 怪しい笑みを浮かべた。
< 8 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop