スイートハニー
「何だよ、恋の悩みってのは」

 俺の気も知らない先輩は真剣そのものの表情を浮かべ、パイプ椅子に腰を落ち着かせると両膝に手をついた。

 ロッカールームで煙草を吸ってしまうようないい加減な先輩でも俺よりは人生経験があるわけで、このまま一人で悩むよりも聞いて貰った方が少しはマシになるのかもしれない。

 そう自分を納得させて、俺は悩みの原因について話し始めた。

「二週間前から、彼女からの連絡がこなくなったんです。喧嘩もしてないし、怒った様子もなかったんで理由が分からなくて……」
「そんなのお前から連絡すればいいじゃん」
「それでさっき、先輩がここにくる前に電話してたんです」
「ならいいじゃねえか」
「良くないんですよ、それが」

 俺の言葉に先輩は眉間に深く皺を刻んだ。

 「……何かあったのか?」と聴いてくる声音に多少の遠慮を感じて、俺はいい加減で傍若無人だと思っていた先輩にも人に気を使うという優しさがあるのだということを初めて知った。

「電話したら出なかったんですよ、相手が」
「バイトとかしてたんじゃないか?」
「彼女はバイトなんかしてません、少なくとも俺に連絡をしてきてた二週間前までは一度もしたことないと思います」
「じゃあれだ、大学から帰ってきてないとか」
「それもないです、いつもこの時間には帰ってきてるって本人が言ってましたから」
「それじゃあ、あとは……」

 そう言ったきり黙り込んでしまう先輩に俺は「あとは?」と先を促した。

「浮気、とか?」

 一瞬、先輩と俺だけのロッカールームという空間に時間が止まったかのような沈黙が流れた。

 だけど先輩の「な、なんてな!」という空元気な声が静かな空間に響いて、止まっていた時間が動き出したのを感じて俺も無理やり頬を緩ませた。

「いやいやいや、まさか!そんな事あるわけ……」

 言いかけて、俺は先週のリオとの会話をふと思いだした。

「え?身に覚えあんの?」
「いや、身に覚えあるっていうか、聞き覚えあるっていうか……」
「何だよ!勿体ぶってないで教えろよ!」
「別に勿体ぶってはないんですけど……実は二週間前に電話した時、大学の後輩に告白されたって言ってたのを思いだして」

 その時リオは確か、すごく嬉しそうに話していた気がする。

 リオに限ってそんなことはない。ないはずだが、もしかして、その後輩と……?

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