髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

「一曲目は薔薇園のワルツだったわよね。あの曲結構速いのよね。1.2.3、1.2.3……」

 初夏に次々と咲きこぼれる、薔薇の花をイメージした曲。優雅で明るい曲調は、舞踏会の始まりの曲としてピッタリだ。

 下から上へ、流れるように。
 背筋を伸ばして、下を向かないように。

 徐々に体が慣れて基本的なステップをスムーズに踏めるようになった所で、少し早く、そしてステップも複雑に。
 頭の中で薔薇園のワルツを再生させながら、大きく後ろへ動いた時だった。
 ここが広いホールではなく、まさに薔薇園であることを忘れていたルシアナは、段差があることに気づかず足を踏み外した。

「きゃあぁっ!!」

 ドスンっ! と派手に尻もちをついたものの、思ったよりも衝撃が軽かった。

「痛たた……」
「うっ……」

 ――え、なに?

 自分のとは違う低い呻き声が聞こえてきてバッと下を向くと、見知らぬ男性が這いつくばって……いや、ルシアナの下敷きになっていた。

「ごっ、ごめんなさい!」
「いや……大丈夫?」

 ルシアナに踏み潰された背中を擦りながら男性が立ち上がると、スラリとしているがルシアナより頭ひとつ分は大きい。
 顎には無精髭が生えている上に、髪は目が隠れるほどボサボサに伸ばしっぱなしにされているせいで、顔立ちはよく分からない。

 見事な金色の髪をしているのに台無しね。

 磨けば光るタイプなのに勿体ないと、今度は服装を見ると、シャツにスラックスとかなり簡素な格好ではあるが、生地は上質な物のように見える。

 庭師……? にしては、作業着とはちがうわよね?
< 100 / 137 >

この作品をシェア

pagetop