髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「受け止めようと思ったんだけど……。体が随分訛っちゃってて、タイミングが合わなかったみたいだ」
「どこのどなたかは存じませんが、ありがとうございます。わたくしルミナリア公爵の孫で、ルシアナ・スタインフェルドと申します。危うく怪我で、今度のデビュタントボールに出られなくなるところでしたわ」
「……僕が誰か、分からない?」
「……? 誰かと言われましても……。どこかでお会いした事があったかしら」
こんなもっさい青年と知り合いなわけが無い。ルミナリア公爵領で出会っていたなら、即座にルシアナの手にかかっていたハズ。
ルミナリア公爵邸を訪れると、誰彼構わずカットモデルにされるのだと、巷ではウワサになっていたくらいだ。
「…………」
俯いて黙ったままでいる男性に、ルシアナは痺れを切らした。
何なのかしら。もしかしてナンパ?
公爵家の孫娘を口説こうなんて、いくら何でも無謀過ぎる。
「あのね、助けて貰っておいてこんなことを言うのは何だけれど、わたくしとお近付きになりたいとかでしたら、諦めてくださいませ。わたくしこれでも、公爵家の孫娘ですの」
「公爵家のご令嬢にしては、ダンスはあまり得意じゃなさそうだね」
「なっ……なんですって?! 余計なお世話よ! ステップのひとつも踏めないような人には言われたくはありませんわ」
「出来るよ。少なくとも君よりは」
「あんまり馬鹿にすると怒り……ちょっ、ちょっと!!」
男と向かい合う形で手を取られた。
タン・タン・タン、タン・タン・タン……。
むさ苦しい見た目に反して男は優雅にワルツのステップを踏み、ルシアナをリードしてくる。
こうして背筋を伸ばせるんじゃない。
先程まで俯いて、背中が丸まっていたくせに。こうなると尚更、この無精髭と髪型が勿体ない。
「ねえあなた、髪型を変えてみませんこと? わたくしに任せて貰えば、きっと素敵に大変身出来ますわよ」
「ははっ……ルシアナは相変らすだね」
まるで本当に、ルシアナを知ったふうな口を聞く。
「人は見た目じゃない。中身が大事」
「――――!!」
一気に記憶が蘇った。4年前の夏、ケイリーが公爵邸にやって来た初日を。