髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

 ごくり、とケイリーの喉仏が動いた。
 前髪と髭で顔の大部分が見えなくても、苦しげな表情をしていることは、息遣いから感じ取れる。
 
「会う人、会う人の目線が、どうしてもこの傷跡にいく。あからさまに『可愛そう』っていう顔をする人もいれば、折角の顔に残念だなんて言われたり、中にはざまあみろって遠回しに言われたこともある」

 玉に瑕とは正にこの事。
 女性ならばその傷を見て溜息をつき、男性ならばほくそ笑まれたのだろう。
 非の打ち所のない完璧な容姿を持ったケイリーは、同性からの妬み嫉みを多く買っていたことは容易に想像できた。

「段々居心地が悪くなってきて軽く父や母に相談したんだ」
「なんと仰られたのですか?」
「笑われたよ。男が顔の傷くらいで何を言っているんだ。堂々としていればいい。女じゃあるまいしって……」

 そうだと思った。
 世間一般で言えば、傷は男の勲章という考え方がある。女性の傷跡に対して、男性の傷跡は軽く見られがちだ。
 戦いに出るのが専ら男の仕事だから仕方がないのだけれど、ケイリーの場合は容姿を褒めそやされて生きてきたから、余計にこたえたのかもしれない。

「確かにそうだよなって思うのに、気になって気になって仕方がないんだ。皆の目線が段々怖くなってきて……。我ながら女々しいって思うよ。馬鹿みたいだ。こんな傷跡ひとつで僕は……」

 今、ルシアナは、なんて言葉をかけるべきなんだろう。

 それは辛かったですね?
 それとも、お気持ちは分かります?

 どちらもピンとこない。
 気持ちが分かるだなんて言われた日には、ルシアナだったら怒るだろう。

 かと言って「わたくしが言った通りでしょ?」なんて、皮肉る気にもなれない。
 ルシアナがいつもケイリーに嫌味を言ってしまうのは、ケイリーなら受け流せるだけの度量があると分かっていたし、許してくれるだろうと思っていたから。
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