髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
今の自分なら、何を言われようと大丈夫。
だからウィンストンに久しぶりに会う今日は、この髪型で挑みたい。
たとえあの人が覚えてなくても。
全ての支度を終えたベロニカは、舞踏会の行われる会場の近くでウィンストンの到着を待っている。
手紙には当日、会場に直接来ると書いてあった。
何人かの顔見知りと挨拶を交わしている内に、ようやくウィンストンが現れた。
背が高く、すっと伸びた手足と、女性ウケする顔立ち。コテコテと刺繍や装飾品があしらわれた服に身を包んでいるのは、今も昔も変わらない。
この人のことを、どうして私は好きになったのかしら……。
自分に明らかな好意を寄せて貰えるのが初めてだったベロニカは、ウィンストンにちょっと言い寄られただけで、あっという間に恋に落ちてしまった。ウィンストンの容姿と上辺だけの甘い言葉にすっかり騙されて、当時の自分は本当に馬鹿だったと、今なら思う。
そして甘い夢から覚めて、悲劇のヒロインになろうとしていた自分は、さらに哀れな大馬鹿者になるところだった。
――ルシアナ、私、頑張るわ。
ウィンストンはこちらにはまだベロニカに気がついてない。小さく息を吸い込んだベロニカは、こちらからウィンストンに声を掛けることにした。
「ウィンストン様、お久しぶりでございます。お元気でしたでしょうか?」
柔らかく微笑んだベロニカに、ウィンストンはこちらを見つめたまま、数秒固まった。
「……ああ、ベロニカか。歳をとって君も少しは大人びた様だな。ふむ、まぁ、少しはマシになったと言ったところか」
「お褒めの言葉として受け取っておきます。ウィンストン様は相変わらずそうですね」
良くも悪くも。
という言葉は付け足さず、ニコリとだけ笑ってみせた。
一瞬だけ拍子抜けしたように口を小さく開けたウィンストンだったが、すぐに「行くぞ」と言って会場の中へと入っていった。
「おお、これはマルティン殿。久しぶりです」
会場へと入ったウィンストンが、すぐに同い年くらいの男性に声を掛けた。
「ウィンストン殿ではないか! 遊学から戻ってきたのかい?」
「ほんの何日か前にね。私の婚約者の妹が社交界デビューするというので、今日に間に合うようにと帰ってきたのさ。ああ、そうだ! 紹介が遅れた。こちらが私の婚約者のベロニカ・スタインフェルドだ。ルミナリア公爵の孫娘で……」
「ベロニカ様、こんばんは。前回踊った時から練習して参りましたよ。今日も一曲、お相手願えますか?」
「もちろんです。後でお手並み拝見と致しましょう」
マルティンとくすくす笑いあっていると、会話に入れないウィンストンがわざとらしく咳払いをした。
「あー、マルティン殿。私の婚約者とは知り合いでしたか」
引っ込み思案でビクビクしていたベロニカしか知らないウィンストンは当然、マルティンとは知り合いでないと踏んでいたのだろう。あてが外れたウィンストンは、歪みそうになる顔を堪えるかのような笑みを顔に貼り付けている。