髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

 ルシアナは知っている。
 あの夜の後、ベロニカがどれほど泣いたのかを。
 ベロニカとルシアナの部屋は近い。屋敷が静まり返ると、嫌でも咽び泣く姉の声が聞こえてきたのだ。
 それでも姉は両親に心配かけまいと、日中は気丈に振る舞いやり過ごしていた。
 健気で思いやりのある姉はこのままだときっと、自分の気持ちを押し殺してウィンストンと結婚してしまうだろう。

 結婚後、あの男がこの屋敷を我が物顔で闊歩する姿が頭に浮かんで、ルシアナは思わずドアを盛大に開けて部屋へと押し入った。

「はんたーーーいっ!!」
「「ルシアナ?!」」

 両親は突然の娘の乱入に、目をパチパチと瞬いて驚いている。

「ウィンストン様との結婚なんて、わたくしは断固反対ですわ!!」
「何をいっているの、ルシアナ。訳の分からないことを言って。子供の出る幕ではないわ」

 部屋から追い出そうと肩を掴んできた母の手を振り払い、父に詰め寄る。

「反対ったら反対です! ウィンストン・バルドーは婚約前から愛人を作る宣言をしている、血筋だけが目当てのとんだゲス野郎なんですのよ! おまけにお姉様の悪口も散々叩いて……! お父様はあの男の上っ面の良さに騙されているんです! 大体、お父様だってバルドー家を良く思っていなかったではありませんか!? そんな男にこのルミナリアの地を任せていいのですか?」

 父だって金で成り上がるバルドー家に対して、いい感情を持っていなかったはずだ。
 ゼェゼェと肩で息をして父の反応を待つルシアナに、母が先に口を開いた。

「いい加減なさい! これは家と家との問題です! 子供は黙っていなさい!!」
「いいえ、黙ってなんていられませんわ! あの男が跡取りとしてこの家に入ってきたらどうなるか……! お姉様はおろか、お父様やお母様だって言いなりになるに決まっています」

 豊富な資金を絶たれることを恐れ、きっと父ですらウィンストンに強くは出られなくなる。これから先、あの男の顔色を伺いながら生きていかなければならないなんて……! ルシアナはどこかに嫁いで家を出るとしても、この家に残る両親や姉のことを思うと黙ってなどいられない。
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