髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「ここ何年かリンゴの売れ行きが良くないんだ。売れ残って余ったリンゴを仕方なく安く売っているせいで、領民は更に生活が苦しくなっている。そんな彼らからこれ以上税をしぼり取るなんて出来ないだろう?」
「リンゴが売れない?」
首を傾げたルシアナに今度は母が答えた。
「サンブレル侯爵が航路を開拓して、ずっと南にある国からバナナやマンゴーなんて言うフルーツを輸入し始めたのよ。酸味がほとんど無くて、とろけるように甘いんだそうよ。それも、南の国々では年中暖かいから一年中フルーツを取れるんですって」
バナナやマンゴー……。ルシアナは前世の記憶が蘇ったので知っているが、確かにこの国でそんなトロピカルなフルーツは見たことがなかった。
リンゴやブドウ、ベリーといったフルーツとは全く違う味に、夢中になるのはわかる気がする。
「それならこちらも、リンゴを輸出すればいいではないですか! 新たな販路を確保できますわ!」
国内で売れなくなったのなら、逆にこちらも国外で売ればいい。トロピカルフルーツの多い南の国ならリンゴは逆に物珍しいハズだ。
名案! と鼻息も荒く提案すると、父はもう一度重いため息をついて頭をふった。
「輸出するためには南にあるサンブレル侯爵の領土まで持っていかなければならない。そこへ運ぶまでの道を整備したとしてもひと月はかかる上、そこから船に積んで運んでとなるとリンゴがもたない。それも、暑い国に運ぶとなったら尚更だ。そもそも、道を整備する金もない」
この国は縦長で、海に面しているのは南側だ。南国へ輸出するとなったら確かに、国の南へと運ばなければならない。
「私を無能だと思うかい? こんな父の元に生まれて恨めしいと思うかい? それでも構わないさ。私や娘が、ウィンストンの言いなりになるだって? それがなんだって言うんだ。とにかくこのルミナリアを守るためには、金が必要なんだ。形振りなど構っていられるか! 分かってくれ、ベロニカ」
涙ぐんで聞いていたベロニカは、何かを決意したようにキリッとした顔をすると、父に向かって微笑んでみせた。
「ええ、お父様。分かっております。それが貴族の娘として生まれてきた意義ですもの。受け入れる以外の選択肢はありません」
――ああ、結局、あの男の言う通りだった。
選択権はウィンストンにあったのだ。