髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
 父と母との話しが終わり部屋へと戻って数時間後。女性の悲鳴のような声が聞こえてきたルシアナは、部屋から慌てて飛び出した。

「一体何事?!」

 もしかして不法侵入者でもいたのかと震えると、騒ぎ声はベロニカの部屋からするようだった。

「お姉様、どうしたので……ま、ま、ま、待ってーー!!!」

 ベロニカの部屋のドアを開けると、そこには大きなハサミを持って自分の髪の毛を切ろうとする姉と、それを阻止しようとする姉付きの侍女・ダフネとが取っ組みあっていた。

「ルシアナお嬢様! どうかベロニカ様を止めてくださいぃーーーっ」

 返事をするよりも早くルシアナはベロニカの手からハサミを奪い、後ろから付いてきていたモニカに渡した。

「ルシアナ、返して! もうこんな髪切るの!! 一生あの人に『ジャングル頭』って馬鹿にされるくらいだったら、丸刈りにしてやるんだからっっ! うわぁぁぁぁん」

 姉のこんな姿は見たことがない。

 目からだけとは言わず鼻からもダラダラと水分が流れ出てきて、ベロニカの顔はぐちゃぐちゃになった。

「わっ……わたしだって……ひっく……ルシアナみたいなサラサラヘアに……う、生まれたかったわ!……で、でも……仕方ないじゃない……どんなに梳かしてオイルをつけても……ひっく……モサモサと広がっちゃうのよ……! わ……私が悪いって言うの……?!」
「もちろんお姉様が悪いハズありませんわ。生まれ付きの容姿を馬鹿にする方がおかしいに決まってますもの」
「なんで私……ひっく……もっと可愛く生まれてこなかったのかしら……ひっく……美人に生まれていたら少なくとも、政略結婚だったとしてもこんな惨めな思いをしなくてすんだのに……!……ひっく」

 ダメだわ……。
 ベロニカはすっかり卑屈になり、自信をなくしてしまっている。
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