髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
元からイライラしていたルシアナは、思わず王子に向かって無礼な返事をしてしまった。それでもケイリーは変わらずににこにこと、人好きのする笑顔を向けてくる。
「人は見た目じゃない。中身が大事でしょ? いくら綺麗に着飾っていたって、高飛車だったり猫かぶりなご令嬢は沢山見てきたし、いくらビシッとキメた格好をした男でも、傲慢だったり嘘を平気でつく人もいる。僕は見た目なんてそう重要な事だとは思わないけどね」
ケイリーの言っていることはもっともだ。
でも、それじゃあ何でお姉様はあんなに悩んで傷付いるのか。見た目はさほど大事じゃないというのなら、泣きじゃくりながら自分の髪を切り落とそうとしたお姉様の方がおかしいとでも言うのか。
要はウィンストンをはじめとするあの場にいた男たちが狭量で、上っ面しか見れない浅はかな者たちばかりだったのだが、頭に血の上っているルシアナにケイリーの言葉は響かなかった。
「ケイリー様の仰っている事が本当なら、世の中の外見で悩む人達はみんな馬鹿ってことですわね」
「なんでそう、極論になるのかなぁ」
「そんなことはありませんわ。ケイリー様にはありませんの? 唇がもっとぽってりしてセクシーなら良かったのにとか、まつ毛がもうあと0.2mm長かったらパッチリして見えるのにとか」
「そんなことに思い悩んで時間を費やすなんて、全くもって馬鹿げていると思うね」
「ほら今、馬鹿だと仰いました」
世の中の大半の人が、多かれ少なかれ自分の外見の欠点を見つけ出しては、どうにかならないかと頭を悩ませている。
そうやって見つけてしまった欠点をカバーすることで、前向きな気持ちになって自分に自信を持てることだってある。外見を磨く努力が無駄な時間などとは言われたくない。
ふんっ、と鼻を鳴らしたルシアナに、ケイリーは哀れな生き物でも見るかのようにルシアナを見つめた。
「君、嫌な性格してるね。僕は外見より中身を重視したいって話しをしているだけなのに。外見を磨くことに時間をかけるその労力を、中身を磨く努力にした方が賢明だとは思わないかい?」
「そうですか。ならケイリー様が伴侶を選ばれる時は、目隠しして選ぶと宜しいのでは? 外見に惑わされず、確実に中身の素敵な方と巡り会えますわ 」
「目隠しせずとも、中身を見極める目くらいは持ち合わせているさ。それに、目隠ししようがしまいが、少なくとも君は選ばないね」
二人の考えは平行線のまま。どんなに言葉を重ねたところで交わりそうもない。
貴方の奥さんなんてこっちから願い下げよ! とでも言いたかったルシアナだが、相手は王子だ。流石に無礼極まりない発言は身を滅ぼすと思いとどまり、口を噤んだ。
「……わたくしの用事はもう済みました。公爵邸へ戻りましょう」
「そうだね」
それっきり二人は押し黙ったまま公爵邸へと帰り、夕食の時間を迎えた。