髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

 サッと前に出てきた所長に、ルシアナはニッコリと笑って顔を上げるように促した。
 
「忙しいのに出迎えまでしてもらってありがとう。少しだけ見学させて頂きますわ。従業員の皆様もどうぞわたくしにはお気遣いなく、いつも通りにして下さいませ」
「それではお言葉に甘えさせて頂きまして……。おーい、みんな! 持ち場に戻ってくれ」

 所長の掛け声で出迎えに集まっていた従業員達が一斉に散っていくと、加工所は一気に活気がでて騒がしくなった。

「ここの加工所ではりんご酢を作っているのよね?」
「左様でございます。簡単に作り方を説明しますと、洗浄したりんごを潰して果汁を絞り出したら樽に入れます。すると神様がやってきて、りんご果汁の甘さをアルコールに変えて下さるのです。これでシードルの完成です」
「酢ってお酒から出来るって聞いたわ。本当なの?」
「はい、そうです。アルコールになった樽に種酢を入れると、りんご酢になるのですよ」
「へえ〜」

 前世の知識があるルシアナは菌によるものだと理解出来たが、この世界でそんな事を言ったって無意味だ。
 全部、お酒の神様が不思議な力で、ただのりんごをお酒に変えてくれると信じられている。
 現に加工所の脇には、酒の神を祀る小さな祭壇に、木彫りの置物とお供え物が並べられているのが見えた。

「あそこがりんごを潰しているところね」

 ルシアナの目の前にはすり鉢状の機械にりんごを幾つか入れては、ハンドルを回している青年がいる。
 青年がハンドルを回すごとにすり鉢の下からは、粉砕されたりんごが吐き出され、それを別の男性が樽に入れては運んでいる。

「ハンドルを回すと刃が回転して、入っているりんごが粉砕されるという仕組みです」
「なるほどね。それをあっちに持っていって濾すのね」

 ルシアナが指さした先では女性が樽の上に布を張り、その上に先程粉砕されてきたりんごを乗っけている。

「女性も力仕事をしているのね。大変だわ」
「ええ。圧搾機自体は女性でも扱いやすいよう工夫して、ハンドルを回せば良いだけの仕様にしていますが、回すのにも力が入りますので、これは交代でやっております」

 所長の説明に頷き返して、ルシアナは圧搾作業をしている女性達の方へと近付いた。
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