髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「ご苦労さま。力仕事は大変じゃないかしら」
「このくらい、なんてことはありませんよ。働き口があるだけで有り難いですからね」
そう言って女性はからからと笑いながら、「すごいでしょ?」と手のひらを見せてきた。ハンドルを回すのに出来たのか、マメだらけでゴツゴツとしている。
「働き者の立派な手ですわ」
「子供が五人いるんです。今年はりんご酢を例年以上に作るようにとのお達しがきているそうですが、しっかりと売れてくれるといいですけどね。じゃなきゃ十分なお給料を頂けませんから」
領地内のりんご農家やりんごの加工所全てに、今年度のりんご酢の生産を増やすよう通達を出して貰った。ここの加工所にもきっちり情報が伝わっているようだ。
もう一度からからと笑った女性は「そうだ」と言って脇に置いてあったコップを取ってきた。
「搾りたて、飲んでみますか? 格別ですよ」
「こら、アンヌ! お嬢様に失礼じゃないか」
「所長さん、いいのよ。是非いただきますわ」
アンヌと呼ばれた女性は樽の下に付いている栓を抜くと、コップにりんごジュースを注いでくれた。
「うわぁぁぁ!!」
一口飲んで、思わず歓声をあげてしまった。
おいしい!!
「さて、次のりんごを絞ろうかしらね」
ルシアナの感動ぶりに満足した様子で見ていたアンヌは、樽からりんごの絞りカスを取り出しはじめた。
作業所の脇の大きな木箱には、りんごの絞りカスが捨てられている。
「あの絞りカスはどうするの?」
「大概は家畜の餌になります」
「ふぅん……」
家畜の餌……家畜の餌……。
確かに栄養豊富だし、家畜の餌にすれば無駄もないわね……。でも……。
「ねえ、種って家畜が食べてもそのままお尻から出てくるわよね?」
「種ですか? それならなるべく取り除いてから与えていますよ。りんごの種は大量に食べると腹を下したりすることもあるのでね」
「なら捨てているのね?」
「使い道がありませんので」
糞として消化されず種が出てくるなら、取り除いて活用したらどうかと提案するつもりだったが、はじめから取り除いていたなんて……!
これなら新たな手間をかけることなく新材料を作り出せるかも! とルシアナは、ニヤリと口角を上げた。