眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
雨は、訪問の終わりに合わせるように、静かに音を強めていた。
軒先に打ちつける雨粒の音が、やけに大きく響く。

扉が閉じられたままの玄関前で、三人はしばらく無言のままだった。
結局、面会は叶った。結咲ちゃんの姿も、健康状態も直接確認できた。

けれど――

「……面会はできましたが」
早瀬はポツリと口を開いた。
「本当に、それだけですね」

花音は、濡れ始めた前髪を指で払うようにして、小さく息を整えた。

「本当は……強い言葉は、使いたくなかったんです」
「“拒否されるなら立入検査を検討する”なんて、言いたくなかった」
「でも、扉を閉められる前に、確実に安否を確認しなければいけなかった。あの一瞬を逃せば、次はいつ会えるかわからないから」

雨音がまた、少し強くなる。

「私たちは、親を罰するために存在するんじゃありません」
「子どもを守るためにいます。そのためには、親との信頼関係を築く必要がある」
「一度面会できたとしても、そのあと何も繋がらなければ意味がないんです。だから……どうか、それだけは、ご理解ください」

声の調子は柔らかく、それでいて芯があった。

新田は手帳を閉じ、何も言わなかった。
早瀬も、視線を落としたまま、黙って頷くことしかできなかった。

佐原は、一歩後ずさるように下がると、小さく頭を下げた。

「ありがとうございました」

そう言って、傘もささずに、その場を離れた。

雨に濡れながら、ただ静かに――まるで何かを断ち切るように。

早瀬は、一瞬だけその背中を見送っていたが、ふと口を開いた。

「……また、何かありましたら」
少し大きな声で呼びかける。
「ご連絡ください」

佐原が足を止め、ゆっくりと振り返る。

その目が――わずかに潤んでいるように見えた。
けれど、それが涙なのか、雨なのかは、分からなかった。

早瀬は、それ以上言葉を続けなかった。
ただ、その場に立ち尽くし、遠ざかる後ろ姿を見送った。

新田がぽつりと呟いた。

「……悪い子じゃないな。少し、一本気すぎるが」

早瀬は無言で頷いた。
冷たい雨がスーツに染みてくるのを、しばらく感じていた。
< 13 / 247 >

この作品をシェア

pagetop