眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
瑠奈がアイスティーを飲みつつ、にやにやと花音を見てくる。

「で? ででで? お付き合いに至るまでの流れ、もっと詳しく聞かせてくれるよね?」

花音はスプーンをくるくる回しながら、ため息まじりに言う。

「……実はね、私、順序を完全に間違えたの」

「は? なにを?」

「その……付き合う前に、早瀬さんの実家に行っちゃって」

「──はぁ!? え、え、え? ちょ、待って。付き合う前に? 実家に? なんで!?」

「本人にも『ちょっと寄るだけ』って言われて、完全に油断してて……そしたら玄関開けたら“あらまぁお客さん!”ってお母さんに迎えられて、気づいたらご飯まで出てきてて……」

「えええっっっ!! もう結婚する人の流れじゃん!?」

「でしょ!? そのあとさ、こっちもなんか変に開き直っちゃって、うちにも“よかったら上がっていきますか?”って言っちゃって……告白される前に!」

瑠奈、テーブルに突っ伏しながら笑い転げる。

「えっもう、花音それ完全に“お互いの両親に挨拶済み”みたいなテンポ! 飛ばしすぎ〜!」

「ほんと、自分でも信じられない。恋愛に億劫だったのに、いざ動いたらすごい勢いで坂道転げ落ちてるみたいな……」

「でもさ、そういうのって、うまくいく時はそういうもんだよ」

「……うん。でもさ、ちゃんと“好きです”って言われる前に、部屋あげてるの、やっぱちょっと恥ずかしいよ」

「いやいや、むしろ逆にいいって! 『好きです』って言う側からしたら、“ここまで心を開いてくれてるんだ”って自信になるもんだよ」

「そうなのかな……」

瑠奈は真顔になって、花音の目をまっすぐ見て言う。

「そうだよ。ていうか、花音に“順序が違う”とか言われても、恋愛って思い通りに順序通り進む方が少ないんだって。大事なのは“どう進んだか”より、“誰と進んだか”だよ」

花音は思わず笑ってしまいながらも、心の奥が少し温かくなるのを感じた。

「……“誰と進んだか”か。……なんか、それ、沁みるな」

「でしょ? はい、今日の名言決定〜。あとでSNSに書いていいよ、“花音の友達が言ってた名言”って」

「誰かバズって、私より先に瑠奈の方が本出しそう」

「うん、もう“児相あるある”でエッセイ書こうかな」

笑い合うふたり。
昼下がりのカフェには、穏やかな余韻が漂っていた。
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