眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
お風呂から上がってきた匠は、髪をタオルでごしごし拭きながらリビングに戻ってきた。

花音はソファの上でパジャマに着替え、膝にはイルカのぬいぐるみを乗せていた。
――あの水族館で、一緒に買ったやつだ。

匠がその姿を目にすると、一瞬目を細めて、くしゃっと笑った。

「……花音ってさ、恋愛に奥手とか言ってたけど、全然そんなことなくない?」

「え?」

「だって、俺の膝の上でそのまま寝るし。俺がキスしても関係なく寝続けるし。」

「……っ!? え、ちょ、き、キス!? いつ!? 覚えてないんだけど!!」

「覚えてないなら、それでいいよ」

匠は涼しい顔で言って、タオルを首にかけたままソファに腰を下ろした。

花音はイルカをぎゅっと抱え込んで、眉を下げた。

「もったいない……覚えてない……ううう……」

「そういうとこさ。素直になんでも言葉にしすぎ」

匠は苦笑して、足を投げ出す。

「だって、仕事中は空気読みまくってんだよ? 職場で余計な一言でも言ったら、支援相手に取り返しつかないことになる。だから――」

花音は口をとがらせて、匠をじっと見つめる。

「たくみといる時くらい、ありのままでいいって言ったの、そっちでしょ」

「……はいはい。たしかに言いました」

花音はぷいっとそっぽを向いて、イルカのぬいぐるみで匠の足をちょんちょん突く。

匠はその様子にくすっと笑って、ぽんぽんと花音の頭を軽く叩いた。

「少し寝たら元気になったな、子供みたい」

「ぷんぷんしてるんだってば!」

「はいはい。ぷんぷん花音さんね」

「“さん”つけたって許さないもん!」

そう言いながらも、どこか花音の声は楽しそうで――
匠と一緒にいる時だけは、言葉にする自分を誰よりも許していられるのだった。
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