眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
ふと、まつ毛が震えて、浅い眠りから目が覚めた。
最初は自分がどこにいるのか分からなかったけれど――目の前の光景で一気に覚醒する。

「……え、やば」

花音は思わず小声でつぶやいた。

匠の胸にすっぽり収まるように、抱きしめられたまま寝ていたらしい。
匠はソファの背もたれに頭を預けて、静かな寝息を立てている。

(やっちゃった……)

当直明けとはいえ、少し横になる予定だったのに。
匠から「会いたい」なんてストレートな連絡をもらって舞い上がり、部屋を掃除して、料理して――気づけば仮眠どころじゃなくなっていた。

時間は、21時を少し過ぎたところ。
まだ夜は長い。問題ない、大丈夫。

「……たくみ」

そっと呼びかけると、匠がゆっくりまぶたを開けた。

「ん……起きた?」

「うん、ごめん。寝ちゃってた。たくみ、明日仕事?」

「いや、休み。花音もでしょ?」

「うん、そうだけど……シャワー、浴びるんでしょ?」

問いかけると、匠は大きくあくびをしながら「借りる」と短く答えた。

そして、わざとらしく少し笑いながら言う。

「ねえ、降りて?」

「……え?」

言われてようやく気づく。
自分が今、匠の膝の上にちょこんと座っていることに。

「わ、わっ、ごめん!」

寝ぼけた頭を慌てて振り払って、花音は慌てて立ち上がる。
匠は、膝を軽くさすりながら「意外と重くなかった」とか、余計なことを言ってくる。

「なにそれ、フォローになってない!」

「いや、俺の筋力に感謝してほしいなって」

「筋力が黙ってれば平和だったのに……!」

花音はぷいっと顔をそらしながら、頬がほんのり熱くなっているのを自覚した。
それを見て、匠はうれしそうに笑っていた。

こんなやりとりすら、日常に溶け込んでしまえばいい。
そんな風に思える夜だった。
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