眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
ベッドの中、ふかふかの布団に体を預けると、背後から匠の腕がふわりと回ってきた。
ぎゅうっと、背中越しに彼のぬくもりを感じる。呼吸がぴたりと合うその瞬間、耳元に、わざとらしい甘ったるい声がそっと忍び寄る。

「花音ちゃん……ねんねしましょうね〜」

「……は?」

「おふとん入ったからには、ねんねのお時間ですよ〜」

花音は即座に布団の中で振り返った。
眉を寄せ、睨むように匠を見上げる。

「たくみ、私のこと子供扱いしてる?」

「うん、してる」

即答。

「なんでかって言うと……」

匠は真顔になって、じっと花音を見つめた。

「子供扱いしないと……この状況、俺が越えられないから」

「……っ!」

言いながら、匠の手が背中からそっと腰にまわる。
布団の中の密着感が一段階上がって、花音は顔が一気に熱くなるのを感じた。

「……じゃあ、耐えて。警察官魂にかけて」

「うっ……!」

匠は一瞬だけ顔をしかめ、肩を震わせる。

「……一番キツいやつ言ったね、それ」

「当然です。風営法だろうが迷惑防止条例だろうが、ここで理性の一線を守れるのが真の生活安全課職員でしょ?」

「児相のくせに、言い回しが容赦ない……!」

ふたりで顔を突き合わせながら、布団の中で小声で笑い合う。

そのまま静かに、でもぴったりとくっついて、しばらくお互いの鼓動を感じる時間が流れた。

「……ほんとは子供扱いなんてしなくても、好きすぎて寝れないだけなんだけどね」

「うそつけ、さっきの“ねんねしましょうね〜”のノリ返して」

「それは……演技指導入ったバージョンだから……」

「はいはい、逮捕ね」

「ちょ、私情での逮捕は違法です佐原さん」

夜は静かに、でもぬくもりの中に笑いを残して、更けていった。
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