眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
業務用端末をシャットダウンし、ようやく立ち上がる。
壁の時計は、すでに夜の8時を回っていた。
ふぅ、とひとつ、息を吐く。
背中が重い。肩の凝りにすら、今になってようやく気づいた。
今日もまた、電話が鳴り止まなかった。
「虐待通告です」
そう告げられる瞬間の、あの緊張感。
匿名の一本の電話の奥には、子どもの命がぶら下がっている。
――そう思えば、どんな小さな違和感だって、聞き流すことなんてできない。
通告の中には、誤解や行きすぎた心配からくるものもある。
でも、本当に危ないケースほど、静かに沈んでいく。音もなく、息をひそめるように。
今日は7件の通告。
午前中に第一報を受け、午後にはケース会議を開いた。
緊急性が高いと判断された2件は、24時間以内に安否確認を行う。班で動く。
一件は学校から。
「教室で寝てばかりの子がいて、腕に痣がある」との報告。
もう一件は、近隣住民から。
「夜中、毎晩のように子どもの泣き声がする」という通報だった。
会議では、虐待の四類型(身体的・心理的・性的・ネグレクト)に照らし合わせ、リスクアセスメント表に従って数値化。
警察、保健所との連携も視野に入れながら、即日対応の準備が進められる。
部屋には言葉少なな職員たちの背中が並ぶ。
でも、その沈黙のなかにこそ、共通した緊張感が流れている。
――これが、「日常」。
だからこそ、たまに聞く子どもの無邪気な声に、救われることがある。
たとえば、保護されたばかりの子がぽつりとつぶやいた、「今日、給食おいしかった」の一言に。
それだけで、泣きたくなる。
冷めきったコーヒーの存在に気づく。
けれど、もうどうでもよかった。
花音は鞄を肩にかけ、ドアの外の夜に向かって歩き出した。
壁の時計は、すでに夜の8時を回っていた。
ふぅ、とひとつ、息を吐く。
背中が重い。肩の凝りにすら、今になってようやく気づいた。
今日もまた、電話が鳴り止まなかった。
「虐待通告です」
そう告げられる瞬間の、あの緊張感。
匿名の一本の電話の奥には、子どもの命がぶら下がっている。
――そう思えば、どんな小さな違和感だって、聞き流すことなんてできない。
通告の中には、誤解や行きすぎた心配からくるものもある。
でも、本当に危ないケースほど、静かに沈んでいく。音もなく、息をひそめるように。
今日は7件の通告。
午前中に第一報を受け、午後にはケース会議を開いた。
緊急性が高いと判断された2件は、24時間以内に安否確認を行う。班で動く。
一件は学校から。
「教室で寝てばかりの子がいて、腕に痣がある」との報告。
もう一件は、近隣住民から。
「夜中、毎晩のように子どもの泣き声がする」という通報だった。
会議では、虐待の四類型(身体的・心理的・性的・ネグレクト)に照らし合わせ、リスクアセスメント表に従って数値化。
警察、保健所との連携も視野に入れながら、即日対応の準備が進められる。
部屋には言葉少なな職員たちの背中が並ぶ。
でも、その沈黙のなかにこそ、共通した緊張感が流れている。
――これが、「日常」。
だからこそ、たまに聞く子どもの無邪気な声に、救われることがある。
たとえば、保護されたばかりの子がぽつりとつぶやいた、「今日、給食おいしかった」の一言に。
それだけで、泣きたくなる。
冷めきったコーヒーの存在に気づく。
けれど、もうどうでもよかった。
花音は鞄を肩にかけ、ドアの外の夜に向かって歩き出した。