眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
風呂から上がり、Tシャツとスウェットに着替えた早瀬がリビングに戻ると、ふかふかのソファにミルクが香箱座りで待っていた。

「おー、いたいた。待ってたのか、ミルク~」

濡れた髪をタオルでわしゃわしゃ拭きながら近づくと、ミルクはしっぽをぴんと立てて足元にすり寄ってくる。

「可愛いなぁ、ほんとお前は……ほら、おやつ、食べる?」

そう言って、リビングのキャビネットから猫用のパウチを取り出し、袋をカシャリと鳴らす。

「にゃあっ!」

待ってましたとばかりに、ミルクが声を上げた。

「だよなだよな~、今日はチキン味だぞ。好きだろ、チキン」

とろけるような声で語りかけながら、丁寧に皿におやつを出してやる。

その様子を見ながら、奥から新聞を小脇に挟んだ父親が呆れたように言った。

「……おいミルク、さっきもおやつ食べてただろ。母さんがくれたやつ。食べすぎると、俺みたいになるぞ」

「いや、父さんの腹と一緒にするなって。ミルクはスタイル維持してるから」

「はっはっは。今に見てろ、腹の出た猫抱えるようになるぞ。ついでにお前も腹出すなよ」

「俺は現場で動いてるから、むしろ痩せ気味だっつーの」

「ふーん? 警察官のくせに、猫にだけはあまあまなんだな」

父親は笑いながらキッチンに向かっていく。その背中に向けて、早瀬はぼそりと呟く。

「……猫には罪がないからな」

ミルクはご機嫌にパウチを食べ、早瀬はその様子を、まるで子どもを見るようなまなざしで眺めていた。

「お前が人間だったら、きっと優しい彼女になっただろうな……ミルクよ……」

「にゃあ」

「だろ?」

猫の返事に満足げに頷き、早瀬は再びタオルで髪を拭いた。
家の中は、ぬくもりと、ちょっとした笑いに包まれていた。
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