眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
街のざわめきが少しずつ遠のき、葉を揺らす風の音が心地よい静寂を包む。

匠はポケットからそっと手を出して、歩きながら花音の手を取った。

そのぬくもりが、少し冷えた指先にじわりと染み渡る。

「ねえ、花音」
匠がふと口を開く。
「もう少ししたらさ、一緒に暮らさない?」

花音は歩みを緩め、顔をあげて彼を見る。

「……嬉しいけど」
「私、まだ……仕事もちゃんと立て直さないとだし。今のままじゃ――」

匠は、手を離さないまま、優しく口を挟んだ。

「うん。だからこそ、だよ」

少しだけ立ち止まり、真っ直ぐに彼女の目を見る。

「花音、また仕事ってなったら、たぶん頑張りすぎると思うから。
そういう人だから。……だから、ちゃんとそばにいたい」

彼の声は穏やかで、どこまでも真剣だった。

「壊れないように。……もし壊れたとしても、何度でも――ちゃんと直せるように。2人で」

花音の目がわずかに揺れた。
握られた手に、ぎゅっと力がこもる。

「……うん」
「また、子どもたちのために頑張りたい。今度は、もう一人じゃないから」

「由香里さんも、博志さんも……たくみも。みんないるから。怖くない」

歩きながら言葉を続ける花音の横顔には、どこか幼さが残りながらも、確かに大人としての覚悟と希望が見えた。

「私も……家族の温かさを、もっと知っていきたい。
たくみと、一緒に」

匠はその言葉に、ふっと笑みを浮かべる。

「……なんかそれ、プロポーズみたいだな」

花音が「ばか」と呟くと、また風が2人の髪を優しく揺らす。
照らされた歩道の影が、静かに伸びていく。

街灯がまた一つ通り過ぎるたびに、2人の手の温度が確かになっていく。

──そうして会話は、
少しずつ、ゆっくりと
夜の静けさに、溶けていった。
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