眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
岡田が席に戻って数分後。

詰所のドアが音もなく開き、新田がふらりと入ってきた。

「……なんだ。今日は妙に静かじゃねぇか」

書類の束を脇に抱えたまま、室内を見渡す。

「お、岡田。おまえ、珍しく黙ってるな。熱でもあんのか?」

「いえ、今ちょっと……成長中なんで」

「ほう。珍しくまともな返しじゃねぇか」

新田は鼻を鳴らしながら、自分のデスクに書類をどさっと置いた。

「けどよ、いい加減諦めろよ。佐原さんと早瀬、おまえらの中じゃ今や“署内1の相思相愛カップル”だぞ」

「ちょ、新田さん! それを本人の前で言うのやめてくださいって……!」

岡田はばっと立ち上がり、あたふたと手を振った。

「俺まだ……まだ夢見てるんすから……! 諦めきれてないんすから……!」

「夢は寝てから見ろ」

早瀬がぼそっと呟いた。

「っぐ……!」

岡田は胸を押さえ、崩れ落ちるように椅子に沈む。

「……現実が刺さる……っ」

新田はそんな岡田を横目に、缶コーヒーをぐびっと一口飲み干すと、ふと目を細めた。

「ま、いいことじゃねぇか。現実が見えるってのは」

「うう……俺の佐原さん……」

「もう“俺の”とか言ってる時点でアウトなんだよ」

「早瀬先輩、今さらそんな冷たい……! あの優しい“背中で語る男”はどこに……!」

「現場に置いてきた。自分で探せ」

「名言っぽいのに雑ぅ……!」

新田は笑いながら、早瀬の背中を軽く叩いた。

「ま、相棒が成長するのは悪くない。あとはおまえ、こいつのくだらない妄想癖をどう扱うか、だな」

「……そこが一番の難関かもしれません」

「ちょ、聞こえてますけど!?」

岡田が慌てて振り返るが、新田も早瀬も軽く流す。

詰所には、夕日が差し込んでいた。
笑い声と書類の紙音と、コーヒーの香り。
いつもの日常が、少しだけ温かく感じられた。
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