眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
「……はい、川野さん。佐原です。突然すみません」

通話の向こうに沈黙が落ちる。息を潜めているような静寂。
やっとのことで、美咲の声が聞こえた。

「何……また、何? 昨日、もう話したでしょ」

「はい。ですが、昨夜、また近隣から泣き声の通報がありました。心配しています。お子さんの様子を、ほんの数分で構いませんので――確認させてください」

「うるさいって言われてるの? また?」

「そういうことではありません。お子さんが、どう過ごしているかを私たちが把握することで、支援の方法を一緒に考えていけます。何か困っていることがあるなら、私たちに言ってください」

再び、長い沈黙。
その後に戻ってきた声は、どこか疲れたような、でもあきらめ混じりだった。

「……今日、仕事行くから……帰ってからじゃダメなの?」

「はい、大丈夫です。夕方5時で、いかがですか? ほんの10分でも構いません」

「……それなら。いいよ。でも、警察はもう呼ばないで」

「わかりました。今回は、私一人で伺います。お約束、ありがとうございます」

一方的に電話は切られた。
それでも、約束を取り付けたことに意味があった。花音は小さく息を吐き、立ち上がる。
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