眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
玄関のチャイムが、短く鳴った。
すぐに扉が開き、玄関先から
「佐原さん、大丈夫ですか?」と、聞き慣れた声が届く。
花音が顔を上げると、黒髪をすっきりまとめた三宅が、児相の腕章を掲げながら入室してきた。
「ありがとう、三宅さん……助かりました」
花音はソファに座ったまま、小さく頭を下げた。
三宅はすぐに状況を察し、結咲ちゃんへと向かう。
その横で、一度花音に視線を戻す。
「足、大丈夫ですか?」
気遣う言葉に、花音は一瞬、痛みではなくその優しさに胸が詰まりそうになった。
けれども、強く、静かに首を横に振る。
「うん、大丈夫。……こっちはなんとかします。結咲ちゃんを、お願い」
三宅は迷いを見せずに頷き、小さな体をそっと抱き上げる。
結咲ちゃんは疲れ果てたように、肩に顔を埋める。
小さな手が三宅の服をぎゅっと掴んだのを見届け、花音は心の中でひとつ、深く息を吐いた。
「行ってきます」
「……お願いします」
ドアが静かに閉まる音。
保護された少女と、託された同僚。
残されたのは、静寂と、一人きりの現実。
花音はゆっくりと、ソファの肘掛けを支えに立ち上がった。
だが――
「っ……!」
右足を床に置いた瞬間、電気が走るような痛みが膝裏まで突き抜けた。
瞬間的に足を引き、ソファへと尻もちをつきかけて、必死に体勢を保つ。
「……はぁ……っ」
呼吸が乱れる。汗が滲む。
心のどこかでは分かっていたはずだ。無理だ、と。
「どうやって、移動しよう……」
口の中で呟いた言葉に、返事はない。
ケンケンで?
いや、この痛みでは無理かもしれない。
杖もない、支えもない。
それより、アクセルを踏めない。運転ができない。
さっきまで抱いていた使命感と緊張感が、まるで空気が抜けるようにしぼんでいく。
結咲ちゃんが離れた途端、鋭く浮かび上がってくるのは自分の無力さだった。
ひとり、誰にも頼れず、動けない状態。
不意に胸がざわつく。
焦りという名の小さな火種が、じわじわと燃え始める。
警察官たちは、もうほとんど室内からいなくなっていた。
玄関の外で、最後のひとりが何かを無線で話しているのがかすかに聞こえる。
このままじゃ、置いて行かれる――そんな考えが頭をよぎる。
花音はソファの肘掛けを再び握りしめ、しばし視線を伏せたまま、時間の止まったような空間に佇んでいた。
すぐに扉が開き、玄関先から
「佐原さん、大丈夫ですか?」と、聞き慣れた声が届く。
花音が顔を上げると、黒髪をすっきりまとめた三宅が、児相の腕章を掲げながら入室してきた。
「ありがとう、三宅さん……助かりました」
花音はソファに座ったまま、小さく頭を下げた。
三宅はすぐに状況を察し、結咲ちゃんへと向かう。
その横で、一度花音に視線を戻す。
「足、大丈夫ですか?」
気遣う言葉に、花音は一瞬、痛みではなくその優しさに胸が詰まりそうになった。
けれども、強く、静かに首を横に振る。
「うん、大丈夫。……こっちはなんとかします。結咲ちゃんを、お願い」
三宅は迷いを見せずに頷き、小さな体をそっと抱き上げる。
結咲ちゃんは疲れ果てたように、肩に顔を埋める。
小さな手が三宅の服をぎゅっと掴んだのを見届け、花音は心の中でひとつ、深く息を吐いた。
「行ってきます」
「……お願いします」
ドアが静かに閉まる音。
保護された少女と、託された同僚。
残されたのは、静寂と、一人きりの現実。
花音はゆっくりと、ソファの肘掛けを支えに立ち上がった。
だが――
「っ……!」
右足を床に置いた瞬間、電気が走るような痛みが膝裏まで突き抜けた。
瞬間的に足を引き、ソファへと尻もちをつきかけて、必死に体勢を保つ。
「……はぁ……っ」
呼吸が乱れる。汗が滲む。
心のどこかでは分かっていたはずだ。無理だ、と。
「どうやって、移動しよう……」
口の中で呟いた言葉に、返事はない。
ケンケンで?
いや、この痛みでは無理かもしれない。
杖もない、支えもない。
それより、アクセルを踏めない。運転ができない。
さっきまで抱いていた使命感と緊張感が、まるで空気が抜けるようにしぼんでいく。
結咲ちゃんが離れた途端、鋭く浮かび上がってくるのは自分の無力さだった。
ひとり、誰にも頼れず、動けない状態。
不意に胸がざわつく。
焦りという名の小さな火種が、じわじわと燃え始める。
警察官たちは、もうほとんど室内からいなくなっていた。
玄関の外で、最後のひとりが何かを無線で話しているのがかすかに聞こえる。
このままじゃ、置いて行かれる――そんな考えが頭をよぎる。
花音はソファの肘掛けを再び握りしめ、しばし視線を伏せたまま、時間の止まったような空間に佇んでいた。