眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
病院の駐車場に覆面パトカーが滑り込むと、早瀬は運転席から静かに降り、花音のドアを開けた。
彼女の右足はかばうように持ち上がり、乗り降りすらままならない状態。
支えを求めるように伸びたその手を、何も言わずに受け取った。
「すみません……」
花音が小さくつぶやく。
「大丈夫です。ゆっくりいきましょう」
その声は柔らかかった。現場で見せる刑事の鋭さはそこにはなく、ただ“助けたい”という意思だけがにじんでいた。
受付に着くと、花音が保険証を取り出そうとするより先に、早瀬が代わりに受付を済ませる。
手慣れたように問診票を受け取り、記入する場所まで彼女を支えながら移動しようとした、その時――。
「車椅子、持ってきました〜」
と、看護師が現れ、にこやかに声をかけてくる。
花音が「ありがとうございます」と言いかけたとき、看護師が早瀬をちらりと一瞥して言った。
「旦那さんは診察室まで付き添われますか?」
……一瞬、空気が静止した。
目を見開いた花音と、きょとんとした早瀬。
「……えっ、いやっ、ち、違います!旦那さんじゃなくて、あの、仕事関係の方で……このあとは、付き添いもしませんので……!」
顔を真っ赤にしながら必死に否定する花音の様子に、少し離れたところで新田がぐっと下を向いて肩を震わせている。
笑いをこらえているのは、明らかだった。
看護師は気まずそうに「あっ、失礼しました」と一礼し、「じゃあ移動の際は看護師が参りますから、もう少しお待ちくださいね」とその場を離れていった。
残された二人。
花音は居心地悪そうに目線を泳がせ、視線を逸らす。けれども――。
ふと彼女が顔を上げると、そこには、穏やかに彼女を見つめる早瀬の姿があった。
からかうでもなく、呆れるでもなく、ただ優しく――まるで、何かをそっと包み込むように。
この人、こんな優しい顔するんだ――。
胸が、ふわりと温かくなる。
でもその直後、チクリと刺すような痛みが走った。
(……何、この感じ)
自分でも、まだ言葉にならない。
けれど確かに、心の奥の何かが、いま大きく揺れた。
彼女の右足はかばうように持ち上がり、乗り降りすらままならない状態。
支えを求めるように伸びたその手を、何も言わずに受け取った。
「すみません……」
花音が小さくつぶやく。
「大丈夫です。ゆっくりいきましょう」
その声は柔らかかった。現場で見せる刑事の鋭さはそこにはなく、ただ“助けたい”という意思だけがにじんでいた。
受付に着くと、花音が保険証を取り出そうとするより先に、早瀬が代わりに受付を済ませる。
手慣れたように問診票を受け取り、記入する場所まで彼女を支えながら移動しようとした、その時――。
「車椅子、持ってきました〜」
と、看護師が現れ、にこやかに声をかけてくる。
花音が「ありがとうございます」と言いかけたとき、看護師が早瀬をちらりと一瞥して言った。
「旦那さんは診察室まで付き添われますか?」
……一瞬、空気が静止した。
目を見開いた花音と、きょとんとした早瀬。
「……えっ、いやっ、ち、違います!旦那さんじゃなくて、あの、仕事関係の方で……このあとは、付き添いもしませんので……!」
顔を真っ赤にしながら必死に否定する花音の様子に、少し離れたところで新田がぐっと下を向いて肩を震わせている。
笑いをこらえているのは、明らかだった。
看護師は気まずそうに「あっ、失礼しました」と一礼し、「じゃあ移動の際は看護師が参りますから、もう少しお待ちくださいね」とその場を離れていった。
残された二人。
花音は居心地悪そうに目線を泳がせ、視線を逸らす。けれども――。
ふと彼女が顔を上げると、そこには、穏やかに彼女を見つめる早瀬の姿があった。
からかうでもなく、呆れるでもなく、ただ優しく――まるで、何かをそっと包み込むように。
この人、こんな優しい顔するんだ――。
胸が、ふわりと温かくなる。
でもその直後、チクリと刺すような痛みが走った。
(……何、この感じ)
自分でも、まだ言葉にならない。
けれど確かに、心の奥の何かが、いま大きく揺れた。