眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
運転席では新田が、信号待ちのタイミングでふと笑いをこぼした。

「なあ、旦那さん、ちゃんと優しくしといたか?」

「……間違えられただけです。」

早瀬は即座に返すが、声音に微かに照れと苦笑が混じる。

新田はその反応を逃さなかった。

「これ署のやつに言いふらそうかな〜。面白いから。」

「やめてください。話が変な方向に広まります。」

そう言いながらも、早瀬の顔にも小さな笑みが浮かんでいた。

パトカーはゆっくりと夜の道を走っていく。
しばらく沈黙が流れたあと、早瀬がポツリと呟く。

「正直……通報入った時、“やっぱりか”みたいな感覚、ありましたよね。」

新田は真顔に戻り、前を見据えながら頷いた。

「ああ。刑事の勘ってやつだな。何か引っかかってた。」

「……でも、本当に良かったです。みんな、助かって。」

言葉は静かだったが、その胸の奥に押し寄せる安堵は深く大きい。

交番から上がっていた情報、泣き声の通報、どれも“見過ごされていたわけではない”が、それでも一歩間違えれば、大事に至っていた可能性もある。

間に合ってよかった。
誰も命を落とさず、守れた。
その事実が、何より重く、何より救いだった。

新田は、ほんの少しだけスピードを緩めながら、ふっと息をつく。

パトカーの車内には、言葉にならない安堵の静けさが漂っていた。
窓の外には、夜の街灯がゆるやかに流れていく。

早瀬は、静かに目を閉じて――胸の奥で、確かに何かを誓っていた。
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