眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
父親はしゃがみ込んで草を抜きながら、ふっとため息をついた。

「おい、寝てんのか?疲れた顔してるぞ」

早瀬は手を休めず、淡々と答えた。
「ああ、今週ちょっと事案が続いてな……」

父親は黙々と手を動かしながらも、ふと顔を上げて注意を促す。
「もう暑くなってくるからな、熱中症に気をつけろよ」

早瀬は少し笑いながら言い返す。
「父さんもな、ずっと畑いじりしてたら、知らない間に熱中症になるぞ」

ミルクの話題になると、早瀬の手が止まった。
顔に少し心配が浮かぶ。
「ミルクもこないだ、ご飯食べなくなって……病院行ったら」

父親は草取りを中断して、匠の顔をじっと見た。

「仮病って言われたわ」

早瀬は思わず苦笑い。
「なんだよそれ……」

父親も苦笑いを浮かべながら、手を止めて草取りを少し休んだ。
「猫も人間も、たまにはさぼらせてくれってことだな」

夏の風が、二人の間の緊張を少しだけ和らげていく。
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