眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
終業後のジム。
鉄の匂いと重たい鉄片が唸る中、早瀬は黙々とベンチプレスを続けていた。

隣のマシンでは同期の武藤拓馬が汗を拭いながら話しかけてくる。

「24時間勤務は体力勝負だな。マジで徹夜多すぎてキツいわ」

早瀬はバーベルを上げながら返す。

「徹夜はあんまりないな。内勤になってからは、だいぶ健康取り戻したよ」

武藤は羨ましそうに顔をしかめる。

「ずるいなー。俺なんて交番5年目だぜ。ずっと鑑識に希望出してるのに」

早瀬が軽く笑いながら返す。

「鑑識じゃ、その筋肉使いきれないだろ」

武藤は照れくさそうに肩をすくめる。

「いや、これは仕事のためじゃないよ。モテるためだ」

早瀬は呆れたようにため息をつくが、その表情はどこか優しい。
心の奥では、川野家のことがぐるぐると頭を巡っていた。

結咲が無事に家に戻って、平穏な日々を過ごせることを願い、そして佐原の足がちゃんと治っているか、密かに気にかけている自分に気づいていた。

筋肉を鍛えながらも、心はやはり仕事と仲間のことにしっかりと結びついている。

早瀬の強さは、ただ肉体だけではなかった。
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