眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
帰宅した花音は、靴を脱ぎながら心の中でゆっくりと反芻した。

——これまで、どんなにハイリスクのケースを担当しても、警察からこんなに密に連絡が来たことなんてなかった。

いつもこちらからの一方通行で、協力をお願いすることはあっても、こうして双方向で情報を共有するのは初めてのことだ。

早瀬の声が思い返される。

丁寧で、まるで本当にこちらのことを気遣うかのような言葉遣い。

あの怪我の時の優しさも、ただの性格からくるものだったのかもしれない。
でも、それだけじゃない。

彼の言葉の端々に、他の誰とも違う真摯さが確かにあった。

仕事の枠を超えた、どこか温かみのある存在感が花音の胸にじわりと染み込んでいく。

——はあ……でも、違うといっても、あくまでも区別して考えなければ。

心の中で何度も繰り返す。
好きになるなんてありえない。これは仕事なんだから。

彼の優しさも、誤解されやすいだけの人の性格だ。そう自分に言い聞かせる。

けれど、恋愛の先に必ずしも幸せが待っているわけではないことも知っている。

これまで見てきた現場で、結婚や家庭が、必ずしも救いにならなかった例は多かった。

幸せのイメージは、単なる理想でしかない。

だからこそ、自分の感情に飛躍しすぎず、慎重に距離を保たなくてはならない。

今はまだ、曖昧な感情の輪郭をぼやかし続けるしかないのだと、花音は静かに胸に刻んだ。
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