眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
名前を呼ばれて
6月中旬。
湿気を帯びた空気が窓越しにじっとりと感じられる午後、児童相談所では月に一度の定例ケース会議が行われていた。
会議室には支援担当、心理士、保育士、ケースワーカーらが静かに資料を開き、進行を見守っている。
佐原花音は、手元の経過記録を確認しながら、川野結咲の現況報告を始めた。
「川野結咲ちゃんの件です。
保護解除から約2週間が経過しましたが、現在のところ特に大きな問題は発生していません。
母親の川野美咲さんからは定期的な電話連絡があり、家庭内の様子についても安定しています。
先週の電話では、
『結咲が“あか”ってちゃんと言えるようになったんですよ』と、色の名前を言えるようになったことを嬉しそうに話していました」
周囲からは小さく頷く声や、穏やかな空気が流れる。支援担当の保育士が続ける。
「保育園への復帰もスムーズに進んでいるようです。朝の別れ際に少し不安定な様子もありましたが、登園後は安定して過ごせています。先生方からの報告も、特に問題なしとのことです」
心理士も言葉を添えた。
「児童側の心理的安定も、今のところは維持されているように見受けられます。ただ、母親の不安定さが今後どう表出するか、長期的な視点では慎重に見守っていく必要がありますね」
花音は静かに頷き、補足する。
「支援継続中ではありますが、今のところ川野美咲さん自身もアルバイト勤務に復帰し、生活リズムの安定が見えてきています。本人も“無理せずやっていく”という言葉を口にしており、状況の自己認識もしっかりしている印象です」
会議室の空気はどこか和らいでいた。
もちろん予断を許す段階ではないが、それでも、支援が奏功しつつある例として、現場職員の士気にも確かに小さな灯がともるようなひとときだった。
進行担当が結論をまとめる。
「それでは、現行の支援体制を維持したまま、モニタリングを継続しましょう。次回は1ヶ月後を目処に再度報告をお願いします」
花音は軽く頭を下げながら、心の中でほんの少しだけ、安堵の息を吐いた。
だが、同時に自らに言い聞かせるように、気を緩めるにはまだ早い、と静かに気を引き締めるのだった。
湿気を帯びた空気が窓越しにじっとりと感じられる午後、児童相談所では月に一度の定例ケース会議が行われていた。
会議室には支援担当、心理士、保育士、ケースワーカーらが静かに資料を開き、進行を見守っている。
佐原花音は、手元の経過記録を確認しながら、川野結咲の現況報告を始めた。
「川野結咲ちゃんの件です。
保護解除から約2週間が経過しましたが、現在のところ特に大きな問題は発生していません。
母親の川野美咲さんからは定期的な電話連絡があり、家庭内の様子についても安定しています。
先週の電話では、
『結咲が“あか”ってちゃんと言えるようになったんですよ』と、色の名前を言えるようになったことを嬉しそうに話していました」
周囲からは小さく頷く声や、穏やかな空気が流れる。支援担当の保育士が続ける。
「保育園への復帰もスムーズに進んでいるようです。朝の別れ際に少し不安定な様子もありましたが、登園後は安定して過ごせています。先生方からの報告も、特に問題なしとのことです」
心理士も言葉を添えた。
「児童側の心理的安定も、今のところは維持されているように見受けられます。ただ、母親の不安定さが今後どう表出するか、長期的な視点では慎重に見守っていく必要がありますね」
花音は静かに頷き、補足する。
「支援継続中ではありますが、今のところ川野美咲さん自身もアルバイト勤務に復帰し、生活リズムの安定が見えてきています。本人も“無理せずやっていく”という言葉を口にしており、状況の自己認識もしっかりしている印象です」
会議室の空気はどこか和らいでいた。
もちろん予断を許す段階ではないが、それでも、支援が奏功しつつある例として、現場職員の士気にも確かに小さな灯がともるようなひとときだった。
進行担当が結論をまとめる。
「それでは、現行の支援体制を維持したまま、モニタリングを継続しましょう。次回は1ヶ月後を目処に再度報告をお願いします」
花音は軽く頭を下げながら、心の中でほんの少しだけ、安堵の息を吐いた。
だが、同時に自らに言い聞かせるように、気を緩めるにはまだ早い、と静かに気を引き締めるのだった。