眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
夕方。
空はまだ明るいが、太陽の熱はようやく少しだけ和らいできた。
事務室にはぽつぽつと人が残っていたが、電話をかける手元の静けさが、夜勤の始まりを感じさせた。
花音は、記録ファイルを確認しながら、順に担当世帯へ確認の電話をかけていく。
一件目――遠藤さん。
コール音のあと、やや疲れたような女性の声が受話器の向こうから聞こえた。
「あっ、佐原さん……はい、はい、大丈夫です。無事に退院できそうで……」
「よかったです。施設の方からも聞いてます。では、退所の日程を調整していきましょうか」
「はい……でも、正直ちょっと不安です。一人でできるかなって……」
「最初は誰でもそうですよ。無理のない範囲で支援を続けますし、何かあればすぐ連絡くださいね」
「……ありがとうございます」
通話を終えると、花音は安心したように小さく息をついた。
遠藤さんの声にはまだ不安がにじんでいたが、それでも“繋がっている”という実感があった。
二件目――川野結咲ちゃんの家庭。
受話器を耳に当て、コール音を数える。
1回、2回、3回……6回。
「……?」
花音は眉をひそめ、もう一度かけ直した。
今度も出ない。
時間的には在宅のはずだった。
これまでは、2回以内にはほぼ必ず出ていた。
もしかして、タイミングが悪かっただけかもしれない。
でも――何かが、少しだけ引っかかる。
不在通知を入れ、時間をあけて再度かける旨を記録しながら、花音は胸の奥に広がる微かな違和感を、そっと無視できずにいた。
“嵐の前の静けさ”――
あの時の三宅の言葉が、不意に頭の中で反響する。
まさかね――。
そう自分に言い聞かせながらも、花音の指先は、どこか落ち着かないままだった。
空はまだ明るいが、太陽の熱はようやく少しだけ和らいできた。
事務室にはぽつぽつと人が残っていたが、電話をかける手元の静けさが、夜勤の始まりを感じさせた。
花音は、記録ファイルを確認しながら、順に担当世帯へ確認の電話をかけていく。
一件目――遠藤さん。
コール音のあと、やや疲れたような女性の声が受話器の向こうから聞こえた。
「あっ、佐原さん……はい、はい、大丈夫です。無事に退院できそうで……」
「よかったです。施設の方からも聞いてます。では、退所の日程を調整していきましょうか」
「はい……でも、正直ちょっと不安です。一人でできるかなって……」
「最初は誰でもそうですよ。無理のない範囲で支援を続けますし、何かあればすぐ連絡くださいね」
「……ありがとうございます」
通話を終えると、花音は安心したように小さく息をついた。
遠藤さんの声にはまだ不安がにじんでいたが、それでも“繋がっている”という実感があった。
二件目――川野結咲ちゃんの家庭。
受話器を耳に当て、コール音を数える。
1回、2回、3回……6回。
「……?」
花音は眉をひそめ、もう一度かけ直した。
今度も出ない。
時間的には在宅のはずだった。
これまでは、2回以内にはほぼ必ず出ていた。
もしかして、タイミングが悪かっただけかもしれない。
でも――何かが、少しだけ引っかかる。
不在通知を入れ、時間をあけて再度かける旨を記録しながら、花音は胸の奥に広がる微かな違和感を、そっと無視できずにいた。
“嵐の前の静けさ”――
あの時の三宅の言葉が、不意に頭の中で反響する。
まさかね――。
そう自分に言い聞かせながらも、花音の指先は、どこか落ち着かないままだった。