眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
スマホの画面には、「早苗」の名前が点滅している。
指が勝手に、画面をスライドしていた。

「……なに?」

『今、家? 今日さ、飲みに行かね? ちょっと話したいこともあるし』

「行かないよ。結咲、置いていけないでしょ」

『子ども、誰か見てくれないの? 最近、警察に張られててさ、あんま近づけないんだよね』

言葉の中に、苛立ちと焦りが混じっている。

『久しぶりに会いたいよ。顔、見たい』

美咲は、言葉を選びながら言った。

「……無理。警察から、会うなって言われてる」

『は? 今、警察関係ないだろ? 美咲はどうしたいんだよ』

その言葉に、返す言葉がつまった。
「自分はどうしたいのか」
答えられない。答える資格もないような気がしていた。

――こういうところだ。
優柔不断で、流されて、強く言われると逆らえない。
見捨てられるのが怖くて、嫌われるのが怖くて、ずっと誰かにすがってきた。

けれど。

佐原の顔が頭に浮かんだ。
あの人は、美咲の話を最後まで聞いてくれた。
否定せず、怒鳴らず、信じると言ってくれた。

「無理。今日は行けないから」

それだけ言って、通話を切った。
指先が震えていた。
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