眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
現場に到着した花音の背中を、じりじりと焼けつく夏の夜風が撫でる。
門扉の前には数名の警察官が集まり、早瀬や新田が一様に険しい顔で立っていた。

「状況は変わりません。応答なしのままです」
早瀬が花音に手短に報告した。
「玄関前では他の交番員が声掛けを続けていますが、反応はありません」

花音は慌てずにスマホを取り出し、美咲の携帯に何度もかけ続ける。
だが、画面に「応答なし」の文字が何度も繰り返されるだけだった。

「結咲ちゃんの泣き声はどうですか?」
花音が声を震わせて尋ねると、早瀬は少し口ごもりながら答えた。

「最初に駆け付けた交番員の話では、15分ほど前までは確かに泣き声が聞こえていたそうです。だんだん弱くなり、やがて完全に聞こえなくなったと」

「親の気配は?」
「まったくありません。おそらく、留守か……それとも……」

新田が言葉を飲み込んだ。

花音は胸の中がざわつき、目の前が暗くなるような感覚に襲われた。
今ここで、何かが壊れてしまったのかもしれない。
彼女はスマホを握りしめながら、わずかに震える指で画面を見つめた。
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