眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
午前1時を少し回ったころだった。
沈黙を破るように、花音のスマートフォンが震えた。
画面には、朝岡の名前。
急いで応答すると、電話越しの朝岡の声は、落ち着きながらもやや疲れを帯びていた。
「佐原さん。今、令状請求の手筈が整いました。
あと5分程度で申請に入れます。
ですが……夜間のため、通常より手続きに時間がかかります。現場に到着するまでに――少なくとも1時間は見てください」
その言葉を聞いた瞬間、花音の胸に鋭い痛みが走った。
握ったスマホの手が震え、喉元が熱くなる。
自分でも抑えきれず、やや大きな声が口をついて出た。
「……それでは、間に合いません!」
一瞬、電話越しの向こうで、朝岡の息が詰まるような気配があった。
それでも彼女は、職責に従うように冷静に返した。
「他にできることはありません。私たちは、法の手続きに則って動くしかない。令状の到着を待って」
その言葉が、今夜何度目かの無力感を引き起こした。
花音は深く目を閉じ、短く返事をして電話を切る。
振り返ると、そこには現場の警察官たちが、何も言わずに見つめていた。
花音は一歩踏み出し、小さく息を吸って言った。
「令状請求は整いました。ただし、現場に届くまでに一時間以上かかる見込みです」
その言葉に、誰一人驚きはしなかった。
警察官たちは、まるでそれが想定済みだったかのように、小さく、しかし確かにうなずいた。
そのとき、早瀬が静かに一歩前へ出た。
「……泣き声が聞こえなくなってから、すでに30分以上経過しています」
彼の声は低く、抑制されていたが、その一言一言に張り詰めた緊張が込められていた。
「児童が――結咲ちゃんが、死亡している可能性も考慮して動いてください。開扉の目処が立ったら、即座に救急車を要請。あと、大家さんには?」
制服を着た交番員がすぐさま応じた。
「すでに連絡済みです。合鍵を、滝村が取りに向かっています」
ようやく動き始めた。
何かが進み出した感覚が、現場に漂った。
だがそれは決して、安堵とは言えない。
むしろ、時間が動いたことで、これまでかろうじて保たれていた緊張の糸が、ゆっくりと引きちぎられていくようだった。
――児童が、死亡している可能性。
その言葉が、まるで真夏の夜に冷たい氷を滑らせたように、花音の背を貫いた。
頭では理解していても、その可能性を言葉にされると、花音は明らかに揺らいだ。
脚の力が一瞬だけ抜け、しゃがみ込んでいたとき以上に、足元が不確かに感じられた。
結咲の泣き声が途絶えた――それは、ただの「静かになった」ではない。
小さな命が、静かに沈んでいく音かもしれないのだ。
そんな思いが、花音の胸を締めつけて離さなかった。
沈黙を破るように、花音のスマートフォンが震えた。
画面には、朝岡の名前。
急いで応答すると、電話越しの朝岡の声は、落ち着きながらもやや疲れを帯びていた。
「佐原さん。今、令状請求の手筈が整いました。
あと5分程度で申請に入れます。
ですが……夜間のため、通常より手続きに時間がかかります。現場に到着するまでに――少なくとも1時間は見てください」
その言葉を聞いた瞬間、花音の胸に鋭い痛みが走った。
握ったスマホの手が震え、喉元が熱くなる。
自分でも抑えきれず、やや大きな声が口をついて出た。
「……それでは、間に合いません!」
一瞬、電話越しの向こうで、朝岡の息が詰まるような気配があった。
それでも彼女は、職責に従うように冷静に返した。
「他にできることはありません。私たちは、法の手続きに則って動くしかない。令状の到着を待って」
その言葉が、今夜何度目かの無力感を引き起こした。
花音は深く目を閉じ、短く返事をして電話を切る。
振り返ると、そこには現場の警察官たちが、何も言わずに見つめていた。
花音は一歩踏み出し、小さく息を吸って言った。
「令状請求は整いました。ただし、現場に届くまでに一時間以上かかる見込みです」
その言葉に、誰一人驚きはしなかった。
警察官たちは、まるでそれが想定済みだったかのように、小さく、しかし確かにうなずいた。
そのとき、早瀬が静かに一歩前へ出た。
「……泣き声が聞こえなくなってから、すでに30分以上経過しています」
彼の声は低く、抑制されていたが、その一言一言に張り詰めた緊張が込められていた。
「児童が――結咲ちゃんが、死亡している可能性も考慮して動いてください。開扉の目処が立ったら、即座に救急車を要請。あと、大家さんには?」
制服を着た交番員がすぐさま応じた。
「すでに連絡済みです。合鍵を、滝村が取りに向かっています」
ようやく動き始めた。
何かが進み出した感覚が、現場に漂った。
だがそれは決して、安堵とは言えない。
むしろ、時間が動いたことで、これまでかろうじて保たれていた緊張の糸が、ゆっくりと引きちぎられていくようだった。
――児童が、死亡している可能性。
その言葉が、まるで真夏の夜に冷たい氷を滑らせたように、花音の背を貫いた。
頭では理解していても、その可能性を言葉にされると、花音は明らかに揺らいだ。
脚の力が一瞬だけ抜け、しゃがみ込んでいたとき以上に、足元が不確かに感じられた。
結咲の泣き声が途絶えた――それは、ただの「静かになった」ではない。
小さな命が、静かに沈んでいく音かもしれないのだ。
そんな思いが、花音の胸を締めつけて離さなかった。