報復を最愛の君と

クラの昔の話

気がつかなかったけど、みんな起きていたんだ。
って、そんなのんきにしてる場合じゃないよね。
「えっとね、こっちはソラ。この子はルナで、あっちがスイだよ」
『なるほど』
「え…?ちょ、ちょっと待ってよ。その魚は?」
スイが驚きを隠せないと言った様子で、私に聞いてきた。
私も少し困ってしまって、クラに視線を送る。
『ヒメア様、私の言葉は人魚にしか通じません。なので、そこの方に伝えてくれますか?』
「う、うん。いいけど…」
それから、ルナが慌てた様子で私の服をひっぱった。
「魚としゃべっているのですか…?」
「うん。そうなの。人魚の能力のひとつで、海の生き物としゃべることができるみたい」
クラの言ったっとおり、3人にクラの言葉が分からないとしたら私が1人でしゃべってるみたいに見えるのかな?
それはなんか嫌だな。
変な人って思われそう。
『ヒメア様、今から私の言葉を伝えてください』
クラにそう言われて、私はうなずいた。
それから、クラの言葉を繰り返す。
『初めましてみなさん、私はエクラと言います。クラとお呼びください。私はこの海に500年前から住んでいて、初代の人魚様…カノン様と一緒にいました。どうか私の話を聞いてくれませんか』
「500年って…。魚ってそんなに寿命ないんじゃ?」
ルナと同じことを私も考えてた。
人間より寿命が長かったとしても、さすがに500年は生きられないと思う。
だとしたらクラは一体何者なんだろう。
『私はもとは人間の体を持っていましたが、カノン様の能力で魚に変えてもらったのです』
「…その理由は?」
『それをお話ししたいです』
「なるほど」
クラの言葉に、ソラは少しの間考え込んだ。
それから何かを決めたように、慎重に口を開いていった。
「分かった。話を聞くよ」
それから、クラの昔の話を聞いた。
ーーーーー
約550年前。
私は森の奥の大きな集落で暮らしていた。
まだ立派な建物なんかはなくて、それでも平和に暮らしていた時代。
そう、あの日私達は能力者に出会った。
まだ人間しかいないとされていた時代に、突然現れた1人の男の子。
一目でその子が人間ではないと分かった。
まるで犬のようにふわふわとした耳が頭についていて、とがった八重歯もあった。
不思議と恐怖はなかったけど、嫌な感じがした。
誰かにじっと見られているような感覚があって、私は集落に戻ろうと走った。
走り始めてから数秒経ち、後ろからガサガサという音が聞こえた。
あの犬のような男の子に気がつかれたのだと思っていたが、思い返せばずっと見ていた奴がいたのだろう。
何かが迫ってくる感じがとれなくて、私は全力で走った。
けれど、鈍臭(どんくさ)い私はこけてしまった。
その瞬間、私は囲まれていることに気がついた。
ヒュッと喉に空気が通った感覚があった。
私よりもはるかに背の高い大人達。
ただ食料を探していただけで死ぬなんてごめんだ。
私は怖くてまた駆け出した。
どこまで来たかもわからず、私は走り続けた。
そして、私は足を止めた。
なぜならそこが異様な景色だったからだ。
ひんやりとした地面を見ると、そこは土ではなく…鉄という素材があった。
目の前にあるのは(おり)
動物を捕獲するためのものにも見えたが、そうじゃない。
鈴のついた首輪をしている、人間のような“何か”がその檻の中にいたのだ。
2、3人ではなく何十人と。
大きな檻は地獄の門のようにも見えた。
< 18 / 28 >

この作品をシェア

pagetop