報復を最愛の君と

呪い

初めは、人間ばかりだった世の中。
今では人間が3割、能力者が6割、聖女が1割。
能力が存在することが、当たり前になった世界。
そんな時代には遅れている、2つの国がありました。
イコロ国とカント国。
別名、人間主義国と言われている。
生まれてくる子が人間であることを望み、能力者だった場合は即座に処刑する。
そのくせ治癒(ちゆ)の能力を持つ聖女は、王宮で過ごすことを許され保護される。
自分を中心としか考えられない人間なんて大嫌い。
消えてしまえ。
こんな世界、なくなってしまえ。
そう、いつも思っている。

私は人間主義国であるイコロ国に生まれた、ヒメア・イコロという名の姫だ。
銀色の髪に桃色の瞳、くっきりした二重に少し幼い顔立ち。
年齢は13歳で、王立イコロ学園中等部に通っている。
なぜか母親にも父親にも似ていない、この容姿を嬉しく思う。
なぜなら、私は人魚として生まれてしまったから。
希少な治癒能力を持つ人魚ということで、私は生かされているけれど。
呪いとして扱われるなら、死んでしまえばよかったと思う。
ドンッ!
考え事をしていたせいで、角を曲がってきた使用人に気がつかなかった。
勢いよくぶつかってしまったので、私は倒れてしまった。
「すみません!って…ヒメア様じゃないですか。ああ、汚い!!呪いがうつってしまうわ!」
そう言って、とても嫌そうに顔を歪めた。
その態度にも動じず、私は使用人を見下ろした。
「姫にぶつかっておいて、謝りもしないとは。ひどい使用人ね。さっさと消えなさい」
名前も分からぬその使用人に、ひどい言葉を言った。
自覚はあった、だって意図的にやっていたから。
「言われなくても!」
怒った様子で、使用人は来た道を戻っていった。
「全く…」
この国では、能力者は「呪い」である。
私も呪いだそうで、家族にも愛されたことがない。
人間になることを強いられ、手術だって何度も繰り返してきた。
そして今では人間の姿と人魚の姿を、自由に変えることができるようになった。
さらにそのせいで気持ち悪がられたけれど。
でも、仕方がない。
私は隣国の人間主義国、カント国の王子ソラ・カントと婚約している。
もっとも、私はソラ様の顔すら知らないのだが。
ただ、透き通るような金色の髪を持っていると。
そう聞いている。
だが私には、相手が誰だと関係ない。
人間はみんな自己中心的な者なのだから。
好きになるはずもない相手のことなんて、知ったって意味がない。
「姫様!」
振り返ると、私の専属執事であるカナタ・メアンが走ってきていた。
「カナタ!」
私は笑顔で彼に駆け寄る。
私が素でいられるのはカナタの前だけ。
唯一信じている、大切な人間。
「全く!!どこにいったのかと思ったら…。昼食の時間ですので、戻りますよ!!」
少し怒った様子のカナタを見て、私は笑った。
「ごめんね。時間見てなかった!」
私がそう言うと、カナタは呆れたようにため息をついた。
「姫様はいっつもそれですね。まあ、姫様らしいです。それでは、部屋に戻りましょう!」
「うん、そうしよ」
カナタは私の手を取り、部屋へ連れていってくれた。
他の人間は触れると「汚い!」とか「この呪われた子が!」なんて言うけれど。
暖かい。
私はカナタのことが大好きだ。
人間を好きになるのは、もう絶対ないと思う。
こんな人間滅多にいないから。
私は人間が大嫌いだ。
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