報復を最愛の君と

ラク・レタラとの出会い

「ま、待って…ください!」
ひたすら逃げるように走って、倉庫からはだいぶ離れている。
それでもまだ走りそうな少年を、私は止めた。
息もだいぶ上がってしまっている。
すると、少年はぴたりと止まった。
「ごめん…」
彼の第一声はそれだった。
そして、透き通るその声に懐かしさを感じた。
なぜだろう。
すごく不思議な感じがする。
彼はフードをとり、私に顔を見せた。
その顔を見て、私はすぐに誰だかを理解した。
私は彼のことをよく知っていた。
なぜなら、同じ学園でクラスメイトだったから。
名前はラク・レタラ。
漆黒の黒髪に茶色い瞳、無愛想で不機嫌そうな表情をしているけれど、今まで会った誰よりもかっこいい。
「突然ごめん…。君が隠れてたし、危なそうだから連れてきちゃって」
「え、や…!大丈夫だよ」
彼の言葉で、我にかえった。
思わず見惚れてしまっていたことを、ごまかすかのように下を向いた。
「なにしてたの?」
さっきよりも小さな声で、レタラは私に聞いた。
「…私ね、あの白衣を着てた男の人と友達なの。最近隠し事されてね。だから、こんな倉庫に向かったから気になって着いてきちゃったの。そしたら…」
なぜか嘘をつく気にはなれなかった私は、素直に話してしまった。
そして、一筋の涙がこぼれる。
そのことに、私は慌てる。
「あ…えと、ごめんなさい!初対面の人にこんなこと話して…」
「いや、いいよ」
レタラはふわりと優しくほほ笑んだ。
彼の優しさに触れて、また涙がポロポロとあふれてしまう。
その涙をぬぐいながら、私は言った。
「大切な人なのに、隠し事されて。嫌だったの。私、カナタが何をしてるのか知りたい…!」
「そっか」
どうしてこんな感情になるのだろうか。
懐かしい、優しい声。
「君の名前は?」
「私…は、ヒメア・イコロです」
本当は名前を教えない方がいいって、わかってる。
私がこの国の姫だと気がつかれない方がいいんだ。
でもこの人には教えたい、なぜだかそう思ってしまった。
「ヒメア…。やっぱり君が、そうなんだね」
ポツリとレタラがつぶやいた声は、私には届かなかった。
「君に伝えたい…いや、伝えなくてはいけないことがあるんだ。明日の昼休みに学園の裏庭で待ってる。来てくれる?」
私はその言葉に驚きながら、こくこくとうなずいた。
「じゃあ、僕は帰るよ。また明日」
「…はい」
ゆっくりと返事をした私を見て、またレタラはほほ笑んだ。
くるりと背を向けて、レタラは道を進んでいった。
その背中に向かって私は叫ぶ。
「また明日!」
ーーーーー
いつもよりはやく目が覚めた私は、はやく学園へ向かった。
息苦しい学園も、今日はとても楽しい場所に思えた。
視界もキラキラして見える、そんな気がした。
4限目までの授業が終わり、私はすぐに裏庭にいった。
もちろん、レタラに会うために。
「レタラ!」
「ん?ああ、ヒメアか」
レタラを見つけた私は、彼に駆け寄った。
「遅くなってごめんなさい。待った?」
そう聞くと、レタラは首を振って「大丈夫」と答えた。
「それじゃ、あっちのテラスに行こうか。昼食は準備してもらってるから」
「え、うん…」
レタラに手を引かれて、私達はテラスの方へ向かった。
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