報復を最愛の君と

sideラク・レタラ 〜さよなら〜

僕は必死にヒメアにここにいるように言った。
ヒメアの表情を見れば、心配と悲しみに包まれているのは分かっていたのに。
僕は勝手に彼女の意思を決めたんだ。
「お願い…ここにいて」
「……い…分かった」
自分の感情を押し殺しているヒメアを見て、いたたまれなくなってしまった。
自分勝手すぎる僕を恨むよ。
きっと君は嫌だと言いたかったんだろうけど。
ごめんね。
それから、僕は走って走ってできるだけ早く村へ戻った。
相変わらずの匂いと異様な雰囲気。
そして、僕はもう一度ヒメアの家へ向かった。
「ヒナタさん!」
窓から一瞬ヒメアのお父さんが見えた気がして、僕は家に入るなり彼の名前を呼んだ。
気のせいかもしれないけど、確認してみるしかない。
僕はヒナタさんの寝室のドアを勢いよく開けた。
すぐそこには、床に横たわるヒナタさんがいた。
「ヒナタさん!!!」
僕はヒナタさんにかけ寄り、ベッドへ横にならせた。
ところどころケガはしていたけど、命に別状はなさそう
「うう…ソラくんかい…?」
「はい、そうです…!!何があったんですか?」
僕がそう聞くと、ヒナタさんは苦しそうに胸を押さえながら話してくれた。
ユウセイと名乗る男と、アヤカと名乗る女が村に来たこと。
その2人が村の人を全員地下へ連れて行き、牢獄に閉じ込められたこと。
その2人の会話。
「そんなことが…!」
「ごほっ、ごほっ。ヒメアは…どこにいるんだ?」
「…僕が村へ来ないように言いました」
そう言うと、ヒナタさんは複雑な顔をした。
悲しそうな嬉しそうな…よく分からない表情。
「もうどうすればいいのか分からないんだ…ワカナも、ごほっ。死んでしまった」
「えっ?」
僕は耳を疑った。
ワカナさんというのは、ヒメアの母親のことだ。
あんなに優しくていつも僕を息子のようによくしてくれた、あのワカナさんが…死んだ?
「嘘だろ…?僕、そんなの認めらんな…」
「仕方がないことなんだよ。能力者でも、いとも簡単に死んでしまうんだ」
ヒナタさんの言葉も、分かるような気がした。
犯罪者ってのは簡単に命を奪ってく。
許せない。
「ねぇ、なんて言ったの?母さんが…死んだ?」
「っ…!!!」
「ヒメア…!」
振り返るとそこには、目を見開いて驚いてるヒメアの姿があった。
村には戻るなと言ったのに。
「嘘だって言ってよ!!!なんで?私も一緒に死んでれば…」
「やめろヒメア!」
考えるよりも先に、口と体が動いた。
「そんなこと言うな…。俺は、ヒメアが死んだら生きていけない!!」
「あ…」
声を荒げた俺を見て、ヒメアはハッとしたような表情をした。
「ごめん…」
「いや、いいんだ」
声を荒げたことは申し訳なく思った。
気まずい雰囲気が流れて困っていると、ヒナタさんがヒメアに言った。
「ヒメア、少しこっちに来てくれないか」
「え?うん」
ヒメアは迷うことなくヒナタさんに近づく。
でも僕はそのことに、違和感を覚え嫌な予感を抱いてしまう。
「ごめんな、ヒメア。母さんを守れなくて」
「ううん。お父さんが謝ることないよ。全部村のみんなを襲った奴のせいなんだから!!」
怒った様子のヒメアを見て、ヒナタさんは悲しそうにした。
「父さんはそんな風に起こるヒメアは見たくないな」
「……ごめんね」
苦しそうに笑うヒメアを見て、僕の胸も苦しくなった。
「ヒメアにはもう苦しんでほしくない。だから、ごめんな」
「え?」
「さよなら」
その時、僕の嫌な予感は当たってしまった。
ヒナタさんがヒメアの頭をなでた時、彼女はその場に倒れてしまった。
俺は彼女を受け止めて何度も名前を呼んだ。
ヒメアはこの時、全ての記憶を失った。
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