【12/31引き下げ】クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい
 休日は、家族連れの来店客が多い。
 ショーケースの中に置かれるケーキを、どれにしようと覗き込むお客さんの姿を見ると、幸せな気持ちになれる。

 洋菓子店に来店するお客さんは、大抵みんなが幸せな表情をしている。
 そんな表情を見ていると、私も幸せのお裾分けをもらっている気持ちになれるのだ。

 だからクリスマスやバレンタインなど、イベントがあると忙しくなるけれど、私はこの職場が大好きだ。

「じゃあ、今度来る時は、梢子さんの休みに合わせなきゃだな」

 話しながら歩いていると、いつの間にか道後商店街のアーケードを出て、市内電車の道後温泉駅前まで来ていた。
 ホームには、タイミングよく大街道経由の松山駅行きの市内電車が停まっている。

「私は逆方向なので、ここで失礼しますね」

 私はそう言うと、藤川さんを電車に乗るよう促した。
 藤川さんは、名残惜しそうに電車に足を踏み入れる。
 そして、こう言った。

「俺、必ずここに戻って来ますから、その時にまた会いましょう」

 電車の扉が閉まると、私は電車が動き始めるまでその場に留まり、電車を見送ることにした。
 藤川さんも、電車の窓から私を見ている。

 電車が見えなくなるまで、私はその場から動けないでいた。
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