【12/31引き下げ】クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい
 その拍子に、隣に座る親子――おそらく未就学児であろう女の子が驚いて「ママー!」と、私の反対側の窓際の席に座る女性に泣きながらしがみ付いた。

 女の子の母親は、娘をなだめようと女の子に声を掛けているけれど、座席のあちらこちらから、同じように搭乗している小さな子たちが悲鳴を上げている。

 乗務員たちも、動揺する乗客全員の対応は難しいようで、一向にこちらへやってくる気配はない。

 母親は周囲の目を気にして、必死になって子どもをなだめているけれど、機体は乱気流に突入しているため、なかなか揺れは治まらない。

 私は手にしていた雑誌を座席前のポケットに差し込むと、自分のバッグの中から、あるものを取り出した。それは、私の姉の娘――姪と遊んでいた時に、姪が間違えて私のバッグの中に入れてしまったシール帳だ。シール帳の裏には、ひらがなで『しのざきさくらこ』と書いてある。桜子(さくらこ)お気に入りのものだった。

 東京へ行く前日、姉たちが実家へ遊びに来た時、桜子が姉のバッグと間違えて私のバッグの中に入れてしまったらしく、飛行機の中にいる時姉から連絡があったのだ。東京へ行く際、別のバッグに貴重品を移し変えることをせず、そのまま普段使いのバッグを持って来ていたため、桜子の宝物を無くしてしまったら大変だ。今度の休日、東京土産を渡すのと一緒にシール帳を返しに行かなければと思っていたけれど……

< 5 / 234 >

この作品をシェア

pagetop