【12/31引き下げ】クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい
 十一月ともなると、夜風が大分肌寒い。
 私はいつも自転車で通勤しているので、防寒対策はばっちりだけど、観光で訪れた藤川さんはちょっと薄着で寒そうだ。風邪を引いては大変なので、長居はしないほうがいいだろう。

 カラクリ時計の隣にある放生園(ほうじょうえん)は、日よけの赤い和傘と石造りの足湯が目印で、無料でだれもが利用できる。ただし、タオルは各自持参しなければならないため、タオルを持っていない人は利用できないのが難点だ。

「私も今日は、このタオルしか持っていないので、よかったら一緒に使いましょう?」

 そう言って私は、バッグの中からハンドタオルを取り出した。フェイスタオルの半分の大きさだけど、足を拭く程度なら全然余裕だろう。

 私たちは靴下を脱ぎ、並んで足湯に浸かる。足からお湯の熱が伝わり、じんわりと温かくなってきた。

 放生園には手湯もあり、足湯に浸かりながら手も温めることができる。
 お湯は本館の源泉を引いているので、温泉に浸からなくても温泉効果があるのだ。
 道後の湯は、アルカリ性単純温泉で疲労回復や冷え性に効く。夜も更けて肌寒くなってきたので、手湯と足湯で少しでも身体が温まればと思ってのことだった。

 ちょうど二十時になったところで、カラクリ時計が動き出す。
 足湯に浸かりながら、横目でカラクリ時計を見ている藤川さんの表情を、私はドキドキしながら眺めていた。

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