蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第7章『小さな命』

ーー



あの夜から――

ふたりの距離は
ゆっくりと
でも確実に深まっていった。

 

蓮は変わらず無口で
多くは語らないけど

 

その分だけ
触れてくれる手が
あたたかくて、優しかった。

 

目が合うたびに
小さく微笑んでくれることも
少しずつ増えてきた。

 

 

…幸せだった。

 

このまま、こんな日々が
ずっと続いていくんだと思ってた。

 

ーー

 

けど

ある日――

 

私は
自分の身体に違和感を覚え始めた。

 

何日も続く
だるさと眠気。

 

生理が
予定より遅れていた。

 

最初は
疲れのせいだと思ってた。

 

でも――
不安は日に日に大きくなっていった。

 

 

放課後
帰り道のドラッグストアで
震える手で袋を掴んだ。

 

「……検査薬ください」

 

自分の声が
遠くで響いているみたいだった。

 

ーー

 

家に帰って
誰もいない部屋で

 

震えた指で
小さなスティックを取り出す。

 

息が苦しかった。

 

目を閉じて
何度も深呼吸した。

 

 

結果が出るまでの時間が
永遠みたいに感じた。

 

そして――

 

窓から差し込む夕日が
静かに揺れてる中で

 

私は、はっきりと
その線を見つめていた。

 

 

――陽性。

 

「……あ……」

 

喉の奥から漏れた声は
自分のものとは思えなかった。

 

胸が締め付けられる。

 

涙がにじむ。

 

 

怖かった。

 

嬉しさなんて
正直、まだ浮かばなかった。

 

不安と混乱で
頭が真っ白だった。

 

ーー

 

その夜
私は蓮にメッセージを送った。

 

《少し、話せる?》

 

すぐに
短い返事が返ってきた。

 

《今、迎えに行く》

 

ーー

 

公園のベンチに座って待っていると
バイクの音が静かに近づいてきた。

 

蓮がヘルメットを外して
ゆっくりと近づいてくる。

 

「……どうした?」

 

その声は
いつもと同じ低く静かな声だった。

 

私は
ギュッと手を握りしめる。

 

心臓が苦しいほど高鳴ってる。

 

「……あのね…」

 

「……私、妊娠してた…」

 

喉が詰まりそうだった。

 

言葉にした瞬間
涙が止まらなくなった。

 

 

蓮は
数秒、沈黙したまま私を見つめた。

 

目を細めるでもなく
驚くでもなく

 

ただ――
じっと、静かに。

 

「……そうか」

 

ぽつりと
それだけ呟いた。

 

 

私は
不安で潰れそうになりながら
続きを吐き出した。

 

「ごめん…こんな時に…」
「迷惑かけちゃった…」

 

「……ごめんね…」

 

泣きながら何度も謝る私の手を
蓮は無言で、そっと包み込んだ。

 

 

「謝んなよ」

 

低く優しい声が
耳に落ちてくる。

 

「お前の腹ん中に……
俺の子がいるんだろ?」

 

少しだけ
声が震えてるのがわかった。

 

蓮が、ゆっくりと
私の肩を抱き寄せた。

 

 

「…ありがとう、な」

 

耳元で
その言葉が囁かれた瞬間――

 

私は
蓮の胸の中で声を殺して泣いた。

 

 

嬉しい、とか

怖い、とか

全部がぐちゃぐちゃで

 

それでも
蓮の腕は、しっかり私を包み込んでくれた。

 

 

長い夜だった。

 

けど
あの腕の中が
世界で一番、あたたかかった。

 

ーー
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