蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第9章『小さな波紋』
ーー
穏やかな日々は
少しずつ
でも確実に過ぎていった。
お腹はさらに膨らんで
動くたびに小さく蹴る命の存在が
毎日、愛おしくてたまらなかった。
「よしよし」
蓮は
最近じゃすっかり腹に話しかけるのが
日課になってきた。
「お前、暴れすぎだろ」
そう言いながらも
蓮の顔は
優しい笑みに緩んでいる。
私は
その姿を見てるだけで胸があたたかくなった。
「…絶対いいパパになるよ、蓮くん」
私がそう言うと
「誰がだよ」
っていつもの照れ隠し。
だけど
手はずっと、お腹を優しく撫で続けてた。
ーー
…だけど、完全に不安がなくなったわけじゃなかった。
ある日
久しぶりに母から連絡が来た。
電話じゃなく
短いメッセージだけ。
《…身体、大丈夫?》
たったそれだけ。
今まで一切の連絡を絶っていた母からの言葉に
思わず
胸がざわついた。
返すべきか
返さないべきか
画面を見つめたまま
指が動かなかった。
蓮に話そうか、迷った。
だけど――
私の中で
少しだけ弱さが顔を出してた。
「……家族のことは、私が整理しなきゃ」
そう心の中で呟いた。
ーー
夜、蓮の部屋。
ソファに並んで座りながら
私は少しだけ、蓮に寄りかかった。
蓮は
何も聞かずにそっと肩を抱いてくれる。
「……蓮くん」
「…ん?」
「私ね……」
「たまに、すごく怖くなるんだ」
ぽつりと
呟くように吐き出した。
「このまま…
みんなにずっと反対されてたら…」
「私…間違ってないかなって…」
言葉が震えそうになって
必死に堪えた。
蓮は
少しだけ黙ったあと
優しく、私の髪を撫でる。
「お前は間違ってねぇ」
低くて、優しい声。
「お前が選んだのは――俺だろ」
「俺も、お前を選んだ」
「それで十分だ」
涙がにじんだ。
「……うん」
「でも……」
蓮は
私の手をそっと握り返す。
「もし何があっても――」
「俺が全部背負う」
「だから、怖ぇ時は隣にいろ」
その言葉が
胸の奥までじんわり染み込んでいった。
蓮の腕の中は
いつだって
どんな不安も
少しずつ溶かしてくれる場所だった。
私はただ
黙ってその胸に顔を埋めた。
優しく
ずっと、背中を撫でてくれていた。
ーー