蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第10章『それでも2人で』

『不死蝶會の仲間たち』



ーー

ある日――

蓮から
少しだけ緊張したような声で言われた。

 

「……今度さ」

 

「メンバーに、お前…紹介するわ」

 

 

その言葉に

一瞬、心臓が跳ねた。

 

 

「……え…」

 

思わず声が裏返る。

 

 

「大丈夫だ」

 

「別に怖がる必要ねぇ」

 

蓮はいつものように
淡々と続ける。

 

 

でも

“不死蝶會のメンバー”――

 

名前を聞くだけで
緊張と不安が一気に押し寄せてきた。

 

 

私は
手のひらにじんわり汗が滲むのを感じながら
ゆっくり頷いた。

 

「……うん」

 

 

ーー

 

当日

指定された店の前に立つと
すでに何台ものバイクが並んでいた。

 

背中に入った刺繍の背中たち。

 

全員が
不死蝶會のメンバーだと一目で分かった。

 

 

「……緊張すんなよ」

 

蓮が小声で笑う。

 

「……無理だよ…」

 

私は
震えそうな声で返した。

 

蓮は
そっと手を握ってくれる。

 

 

「大丈夫。俺がいる」

 

 

その言葉に
少しだけ肩の力が抜けた。

 

 

店の扉を開けると――

 

中には数人の男たちが
すでに集まっていた。

 

皆、一斉にこちらを振り返る。

 

一瞬、空気が張り詰めた気がした。

 

 

「おう、総長!」

 

その中の1人――副長の圭悟が
笑顔で手を挙げた。

 

 

「そっちが…?」

 

圭悟の視線が私に向く。

 

 

私は思わず背筋を正して
小さく頭を下げた。

 

「……は、はじめまして」

 

声が震えてしまう。

 

 

圭悟は
一瞬驚いたように目を丸くしたあと

 

ふっと優しく笑った。

 

 

「よく来てくれたな」

 

「総長が誰か紹介してくるなんて
正直初めてだわ」

 

 

周りのメンバーも
それぞれ苦笑交じりに頷く。

 

「総長の女、初お披露目か」
「めちゃくちゃ大事にされてんな〜」

 

冗談交じりの声に
蓮は少しだけ目を細めたが

 

何も言わず
私の手をギュッと握り直してくれる。

 

 

「お前ら」

 

蓮が静かに口を開く。

 

「こいつが俺の――家族になる女だ」

 

その一言に
場が一瞬静まり返った。

 

 

でも次の瞬間
圭悟がニヤッと笑った。

 

「そりゃ総長の決めた女なら、俺らに文句はねぇよ」

 

「ようこそ、不死蝶會の身内へ」

 

 

周りも自然と笑いが漏れ始める。

 

「総長も丸くなったな〜」
「女にだけは甘ぇもんな」

 

そんな冗談に
私も思わず緊張が少しだけほぐれて笑ってしまった。

 

 

蓮は苦笑しながら
小さくため息をつく。

 

「……うるせぇ」

 

 

圭悟はそんな蓮を軽く肘で突きながら

 

「けどよ、マジで安心したわ」

 

「お前、やっと人らしい顔するようになったな」

 

その言葉に
蓮は照れ隠しのように小さく舌打ちした。

 

 

私は
そっと蓮の腕に寄りかかった。

 

蓮は小さく微笑んで

 

「これからも――よろしく頼むわ」

 

とだけ静かに呟いた。

 

 

不死蝶會の仲間たちと
新しい空気が、ゆっくりと流れていった。

 

私たちの”家族”は
こうして少しずつ

周りにも広がり始めていた。

 

ーー
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