蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
『幸せの準備期間』
ーー
それからの日々は――
少しずつ、
穏やかで優しい時間が流れていった。
不死蝶會のメンバーたちとも
何度か顔を合わせるうちに
私の緊張も
少しずつ和らいでいった。
「おう美咲、また腹でかくなったな〜」
「なんかあったらすぐ言えよ?
総長の女守るのも、俺らの役目だからな」
メンバーのみんなは
ぶっきらぼうな優しさを
少しずつ向けてくれるようになった。
その空気が
なんだか嬉しくて
ふふっと笑ってしまう自分がいた。
ーー
蓮もまた
日に日に”父親”の顔へと変わっていった。
「腹、重くねぇか?」
「食えそうなもんあるか?」
「眠れねぇ時は起こせ」
ぶっきらぼうだけど
気遣いが溢れてるその言葉たちに
私は毎日、胸がいっぱいになっていた。
ある夜――
蓮の部屋のソファで
ふたり並んで映画を見ていた時
私はふと思い切って尋ねた。
「ねえ蓮くん」
「…ん?」
「パパになる実感、湧いてきた?」
蓮は
一瞬黙ったまま画面を見つめたあと
ゆっくりと返事をした。
「……正直、まだ全部じゃねぇ」
「でもな――」
「お前の腹蹴るこいつの動き感じてっとさ、
なんか、実感ってより…変な緊張してくる」
私は笑って
蓮の手をそっと握った。
「大丈夫だよ」
「蓮くんなら、絶対いいパパになれる」
蓮は照れくさそうに
鼻で短く笑う。
「……お前が言うと
なんかほんとっぽく聞こえんだよな」
そのまま自然と
私の肩を引き寄せる蓮の腕。
私はその胸元に
静かに顔を埋めた。
こうして寄り添ってると
不安も焦りも
ゆっくり消えていく気がする。
蓮の隣は
ずっと、私の帰る場所だった。
ーー
翌週の検診。
「順調ですね」
「赤ちゃんも元気ですよ」
先生の言葉に
私はほっと息を吐いた。
蓮は隣で無言のまま
モニターに映る小さな命を
じっと見つめていた。
小さな心臓が
リズム良く動いてるのが見えた。
「……すげぇな」
蓮の呟きは
静かで、どこか神聖にすら聞こえた。
私は思わず
蓮の手を握る。
蓮はしっかりと握り返してくれた。
この子が生まれたら
どんな日々が待ってるんだろう
私たち家族の物語は
きっとまだまだ続いていく。
焦らず
ゆっくりと
それでも確実に――
私たちの幸せは
少しずつ、育っていった。
ーー