『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

プロローグ


 不思議な列車に乗っていた。
 未来行き。
 乗車しているのはわたし一人だった。
 座席も一席しかなかった。
 窓から外を見たが、何も見えなかった。
 星が見えれば銀河鉄道なのだが……、

 ん? 
 チャイム? 

 音がした方に顔を上げると、ドア上のディスプレーに次の停車駅が表示されていた。
 それはカレンダーのような駅名だった。
 そして、かつて誰一人降りたことのない駅だった。

 何故わたしはそこに行くのだろう? と考えていると、いきなり物凄い熱風が送風口から噴き出してきた。息をするのも苦しいほどの熱風だった。すぐに全身が汗まみれになり、頭痛と吐き気が襲ってきた。

 ヤバイ! 
 もしかして熱中症か? 
 早く外に出なければ!

 急いで席を立って、連結部分のドアの前に立った。

 早く開いてくれ!

 声を限りに叫んだが、ドアは開かなかった。床を強く踏んでも、ドアを叩いても、なんの反応もなかった。

 焦って取っ手を探した。
 しかし、どこにも見当たらなかった。
 それならと僅かな隙間に指先を入れて開けようとしたが、うんともすんとも動かなかった。
 それでも無駄な努力を続けた。
 なんとかしないと死にそうだからだ。
 でも、その悪あがきが体温を更に上昇させて、大量の汗を誘発し、全身が濡れネズミのようになった。
 額からは塩分の濃い汗が滝のように流れ出し、目に入ると痛みに変わって、目が開けられなくなった。
 パニックのようになってドアを叩いた。
 叩き続けた。
 でも、救助の手を差し伸べる人は誰も現れなかった。

 まさか、見殺しにされるのか? 

 そう思った瞬間、背後に何かを感じた。
 とっさに振り返ると、信じられないものが目に入った。
 燃えていた。
 車内が燃えていた。
 火の手はすぐそばまで近づいていた。

 なんで?

 さっきまでは火の欠片(かけら)もなかったのに、急に燃え出すなんて信じられなかった。

 やめてくれ~!

 逃げ場がなくなったわたしは狂ったようにドアを叩き続けたが、開く気配はまったくなかった。
 それどころか、ドア自体が熱くなり、触ることさえできなくなった。

 もうダメだ……、

 絶望に襲われると、目の前が真っ暗になった。
 もう立っていられなくなって、膝をついた。
 その時、背中が燃えるように熱くなった。

 ヤバイ!

 とっさに振り向くと、炎が目の前まで押し寄せていた。

 うゎ~~!

 絶叫した瞬間、すべてが消えた。


        *


 夢だった。
 酷い夢だった。
 そのせいだろう、パジャマ代わりのTシャツがぐっしょりと濡れていた。
 でも、その原因は悪夢だけではなかった。
 部屋の温度が異常な状態になっていた。
 余りにも暑すぎて、たまらなくなって体を起こすと、シーツもびっしょりと濡れていた。
 気持ち悪くなって布団から抜け出したが、ちゃぶ台(・・・・)の前に座ると、動けなくなった。体が重くて、どうしようもなかった。
 何をする気もならないので、しばらくボーっとしていた。
 それでも、時間だけは見ておこうと、スマホの画面をタップした。
 12時20分と表示されていた。

 ということは……、

 夜勤が終わったのが6時で、
 その後、酒を飲みながらご飯を食べて家に帰ったのが7時30分。
 そして、寝たのが8時過ぎ。
 つまり4時間ほどしか眠っていないことになる。
 道理で体が重いはずだ。
 どっこいしょ(・・・・・・)と立ち上がったら、顎が外れそうなくらいの大あくびが出た。

 服を着替えて、顔を洗うと、少し気分が良くなった。
 冷蔵庫から牛乳を取り出して、パックの口から直接ゴクゴク飲むと、体の中から冷えてきて、ボーっとした感じがなくなってきた。

 落ち着いたので、テレビをつけた。
 画面には安倍首相の顔が写っていた。
 しかしそれもすぐ終わり、女性アナウンサーと女性の気象予報士が国内最高気温のニュースを伝え出した。41.1度だという。

 はっ? 
 41.1度? 
 何それ? 
 体温より高いって、おかしくない? 
 それも浜松で。
 はっ? 
 なんで? 
 フェーン現象で急激に温度が上がっただって? 
 止めてくれよ熊谷じゃあるまいし、
 あの熊谷に並ぶなんて信じられない……、
 とブツブツ言いながらエアコンを見上げると、冷風も出さずに黙ってわたしを見つめていた。

 勘弁してくれよ! 

 毒づきながらタイマーの切れたエアコンと羽を休めている扇風機を急いでONにした。

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