『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

2020年8月17日(1)


 ところで今日は何日だ? 
 ……8月17日か、
 新型コロナがなかったら東京オリンピックが終わってホッとしている頃かもしれないな。
 ホッとしているというよりも、気が抜けていると言った方が合っているかもしれない。
 わたしはまったく興味がないけど、仕事仲間はサッカーが見たかったようだ。
 決勝戦でブラジルを破って日本が優勝する姿を見ることができたら人生が変わるかもしれないのにと残念がっていた。
 気持ちはわからないでもないが、こればっかりはどうしようもない。
 物事は思うようにならないと相場が決まっている。

 そんなことを考えていたら、突然、壁に掛けていた仕事着が落ちた。
 扇風機の風が強すぎたようだ。
 弱にして、壁に掛け直した。

 今日もこれを着て交通誘導警備の仕事に行かなければならない。
 今やっている工事の内容は老朽化した下水道管の取替えで、時間は夜9時から朝6時まで。
 現場は極めて交通量の多い道路なので、渋滞発生を防ぐために夜間に工事をしている。

 工事を始めてからかなり経つが、なかなか終わらない。
 それに、ここが終わったとしてもこの種の工事は永遠に無くならないらしい。
 下水管は日本全国に46万キロメートルの管が埋まっていて、これは地球を11周するほどの長さになるらしいが、その耐用年数は約30年で、毎年膨大な交換需要が発生する。
 それを放っておくと、管が腐食したり、ヒビが入って水漏れを起こす。
 場合によっては破裂することもある。
 そうなれば大変なことになる。
 道路が水浸しになったり、陥没することもあるのだ。
 実際に全国では何千件もの陥没事故が起こっている。
 だから至る所で工事が行われている。
 わたしの仕事もなくなる心配はないということになる。

 部屋の温度が下がって落ち着いてきたせいか、いきなり腹の虫が鳴った。
 早く食べろと催促をしている。
〈わかった、わかった〉となだめながら、冷蔵庫を開けた。

 すると、帰宅前にコンビニで買った冷麺に見つめられた。
〈わかってますよ〉と言いながらそれを取り出して、ちゃぶ台(・・・・)の上に置いた。

 食べ方は知っているが、一応ラップに印刷されている〈お召し上がり方〉を確認したあと、フィルムと蓋を外し、中皿を外し、麺の上にスープをかけた。
 それから麺をほぐして具材を乗せ、辛子を容器の縁に出して、端の方から少しずつ混ぜていった。

 最初に食べるのはキュウリと決めている。
 シャキシャキッという音と感触がたまらない。
 次は焼き豚。
 辛子と合わせるとうまさ倍増。
 そして次はワカメ。
 迷信らしいが、髪の毛が太く黒くなることを願って食べた。
 それから、変化をつけるためにキクラゲを食べたあと、玉子を口に入れた。

 一通り具材と麵を食べたら、今度はごっちゃまぜ。
 すべての具材と一緒に麺を口に放り込むと、〈豪華な全部食べ〉に味蕾が躍り出した。

 食べ終わって、時間を確認した。
 13時55分だった。
 まだ余裕があるので少し昼寝をすることにした。
 さっき起きたばかりだが、寝不足で仕事に行くわけにはいかない。
 夜間の交通誘導警備は神経を使うからだ。
 昼間に比べて交通量は少ないが、その分スピードを出して走る車も多い。
 それがそのまま工事現場に突っ込んで来たら大惨事になる。
 もちろん、点滅する注意信号もあり、二重三重に安全対策をしているので事故の危険性は極めて少ないが、用心に越したことはない。
 昼間の住宅街の交通誘導警備と違って気を抜ける時間帯はないのだ。
 常に神経を張り詰めて警備をしなければならない。

 そんなことを考えながら歯磨きをして、
 シーツを新しいのに取り替えて、
 時計のタイマーを17時に合わせて、
 エアコンをつけっぱなしにして、
 窓にカーテンを引いて、
 タオルケットを頭まで被った。
 夢の中に誘われるのに時間はかからなかった。

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