『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(4)
次の日、仕事に行く前にケーキ屋へ寄った。
鈴の返礼を何にしたら良いかわからなかったせいもあるが、クリスマスにプレゼントするのはケーキだろうと勝手に思い込んだからだ。
人気の高いケーキ屋だけあって人でごった返していて、しばらく待たされて、やっと俺の順番になった。
そのケーキ屋で一番高いケーキを買うと決めていたが、何故か別のものに目がいった。
そしてそれに引き寄せられた。
それを見つめながら彼女の顔を思い浮かべると、これ以外にはないと思った。
それは、とても可愛らしいプチケーキセットだった。
色とりどりの小さなケーキが10個入っていた。
値段は税抜き2,500円だった。
迷わずそれを買って、新宿のライヴハウスへ急いだ。
その日の演奏は最高だったと思う。
今までになくカッコいいアドリブを決めることができたと思う。
客の反応もすこぶる良かったと思う。
でも、そんなことはどうでもよかった。
早く店に行きたかった。
彼女が来るのを待ちたかった。
そして、返礼を渡した時の彼女の反応を見たかった。
驚いてくれるかな?
受け取ってくれるかな?
喜んでくれるかな?
初恋の相手に初めてプレゼントを渡す前のようにドキドキしていた。