『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(24)


 その夜、久々に夢を見た。
 しかし、電車に乗る夢ではなかった。
 松山さんと彼女の夢だった。
 二人はプチケーキセットを前にジャンケンをしていた。
 松山さんがグーを出し、彼女はパーだった。
 松山さんが天を仰ぐと、彼女が勝ち誇ったように両手で拳を握った。
 そして、ど・れ・に・し・よ・う・か・な、と指差しながら10個のプチケーキを品定めし始めたが、「これ!」とハート型のチョコレートケーキを手に取った。
「それ狙ってたんだよな~」と松山さんが悔しがると、「ご愁傷様」と彼女が口に入れた。
 その途端、恵比須さんのような顔になった。
 口福に包まれた彼女が「どうぞ」と手を向けると、松山さんは残りの9個を舐めるように見回してから、「これだ!」と花びらを(かたど)ったオレンジ色のケーキを手に取った。
 半分口に入れたところで視線を彼女に向けて、グイっと顔を突きだした。
 すると彼女は一瞬、驚いたような表情になったが、すぐに嬉しそうに笑って、松山さんの口から出ているケーキをくわえた。
 そして少しずつ食べて二人の唇が合わさると、そのままじっと動かなくなった。

 少しして二人の口が動き始めた。
 でも、唇は離さなかった。
 キスを続けながら甘い時間が過ぎていった。

 場面が変わった。
 二人はベッドの中にいた。
 長い長いキスを交わしたあと、「あなたと結婚したら『松山伊代』になるのね」と彼女が言うと、頷いた松山さんが真剣な眼差しで、「君の名前を知った瞬間に運命の人だと思った。〈まつやま〉と〈いよ〉は切っても切れない仲だからね」と返した。
 するとハッとしたような表情になった彼女は、「そっかー。ほんとね。〈まつやまいよ〉って運命に導かれた名前なんだ~」と何かを考える表情になった。

「ねえ、名前の漢字変えようか」

「どういうこと?」

「『伊代』を『伊予』に変えるの。『松山伊予』だったら完璧でしょ」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて松山さんの鼻にチュッとすると、松山さんはうっとりとした目で彼女を見つめて抱き寄せた。
 彼の唇が彼女の唇から頬へ、そして耳たぶから耳の中心部へと移り、唇を耳に埋めたままくすぐるように囁いた。

「君って最高だね」

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