君ともう一度、　恋を始めるために
このカフェで週に５日間勤務する藤崎柚葉は現在２７歳。
身長は１６０センチで細身の色白。
瞳は深い琥珀色で、髪は生まれつきのくせ毛を胸元まで伸ばしたブラウンのウェーブ。
目も鼻も口も大振りではなく、どちらかというと大人しめの顔立ちは、穏やかで優しい印象を与えるらしい。

「柚葉ちゃん、今日は落ち着いているからちょっと休憩してからでいいよ」
「ありがとうございます」

マスターにすすめられるまま空いていたカウンター席の端に座り、嵐のように慌ただしかった朝を思い出しながら柚葉は息をつく。
９月に入ったとはいえ京都はまだ暑く、動き回って汗をかく子供には何枚もの着替えが必要になるし、食欲が落ちないよう食事にだって気を付けなくてはならない。
シングルマザーであれば、仕事も家事も子育てもそのすべてを柚葉がやるしかない。

―――こんな生活がいつまでも続けられるのだろうか？もし、私がいなくなったら…

そんなことを考えて、柚葉は小さく肩を落とした。
この心配はただの空想ではない。
実は５年前、柚葉の母が突然倒れそのまま亡くなったのだ。
特に持病があったわけでもなく突然の心不全で、柚葉は昨日まで元気だった母を失ってしまったことにショックを受け、人の命は永遠ではないのだと痛感した。
だからこそ、莉奈が小学校に上がるまでに、自分に何があってもいいように生活の基盤を整えてあげなくてはいけないと思っているし、マスターにも時期を見て引っ越しをすると話している。
でなければ、わざわざアルバイトのままで働いたりはしない。
それでも莉奈が小さいうちはそうお金もかからなかったが、さすがにこれからは出費も増えてくるだろうから、そろそろ本気で引っ越しを考えなくてはいけないと思っている。

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